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「こんにちは」
ネネが声をかけると、男はぎょろりと目を向けた。落ちくぼんだ目に、ぼさぼさの髪。この風貌のせいで老いて見えるが、実際は見た目よりも若いのかもしれない。
「誰だ」
「神様だよ」
男がネネを睨みつけた。これが実際の幼女だったら、たちまち泣き出すだろう。ただこれはかりそめの姿。一切引くこともなくネネは笑って言った。男の顔に不快感が隠されることもなく現れる。
「ふざけるな! 人の知らない間にこんなところに連れてきやがって!」
「おうおう、吠えるねぇ」
「やめろネネ」
あおるような態度をとるネネの襟首をつかんで、男から引き離した。口を尖らせたネネから目を逸らし、男の方に向き直った。
「失礼いたしました、真田一成様」
男の目により力が入った。無理もない。知らない場所で、知らない人間が自分の名前を知っているのだから。自分の頭上に、山の上にかかった雲のように名前が浮かんでいることなど、彼が知るすべもない。
「なんの茶番だこれは!」
説明する間もなく、真田が胸倉をつかんできた。
あぁ、手間が省けた。
真田の手が触れた瞬間、頭に流れてくるのは彼が今までに見てきた景色、触れたものの温もり、聞いた音。彼自身の記憶そのものだった。一番古い記憶から、最期の記憶まで。そのすべてを我々は触れることで知ることができるのだ。
「ここは、死後の世界です」
現実を、突きつける。
それに対する反応は本当にそれぞれだ。
穏やかな笑みを浮かべるもの、息もできないくらいに泣き叫ぶもの、遺してきた大切な人の心配をするもの──。
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