しんしん 悲しみ 降り積もる

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しんしんしん 降り積もる 今日も悲しみ 降り積もる しんしんしん 降り積もる 今日も苦しみ 降り積もる 少し昔、以津(いづ)という女性がいた。 恋愛結婚で旧家に嫁いだ。 「金持ちの娘が良かった」と言われて 義父に(しいた)げられた。 お(ぼっ)ちゃまの夫は身も心も弱い男。 以津(いづ)(かば)ってくれない。  以津(いづ)は実家を頼れなかった。 言えるものなら言いたいセリフ「実家に帰らせていただきます」。 義父が亡くなり、 当主となった夫は重圧で苛立(いらだ)ち、笑顔が減った。 それでも以津(いづ)は子ども以上に夫を愛した。 なぜなら夫は「運命」でなく「宿命」の男。 以津(いづ)は年老いると、積年のストレスもあって、認知症を(わずら)った。 夫はそんな妻を案じながら、この世を去った。 ぽたぽたぽた 解けていく 今日も悲しみ 解けていく ぽたぽたぽた 解けていく 今日も苦しみ 解けていく 認知症のおかげで、 過去の記憶が薄れていった。 さらさらさら 消え去った 悲しみ苦しみ 消え去った さらさらさら 風が吹く 解放されて  ()ばたいた 楽になり、眠るように安らかな最期。 子どもの頃に失った母、そして夫に再会したのか、 幸せそうな死に顔。
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