月冴ゆる

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  「そんな イヤじゃあああッ て丸出しの顔しない」 「だって⋯⋯だって⋯⋯」  大船に乗った気でいたら柊がどこがしかに運んでくれるとは思っていた。がっ。コレは想定外だ。キツい。だいぶキツい。 「プラスSでは少年少女アスリートにスポットを当てる番組も制作されるんだ。軸はエッジアカデミーだけど業界全体の底上げを目指してる。翼ある者はその応援団だ。メインアイコンだ。光栄に思え」 「わかるけどっ⋯⋯」 「現役のうちから後進の育成に貢献できるんだぞ。ちびっ子達は自分を応援してくれる存在が世界で活躍する姿で夢を見る。モチベーションだって上がる。いい事づくめだ」  ううう  子ども達の未来のためにと言われると断れない。いや、業務命令なら断る選択肢はハナから無いが、躊躇したり恥ずかしがったりキツいと思う自由さえ遮断され追い詰められるこの感覚。苦痛だ。 「大体なあ。俺なんかシュウだぞ。派手な羽根コートやら軽薄な衣装着てウィンクバシバシ飛ばしまくるんだぞ。何より二十二才って設定だぞ。一回りもサバ読むんだぞ」 「!」 「拷問だぞ⋯⋯⋯⋯」  しょんぼりした柊が切ない。そうだ。柊は俺よりキツいのかも知れない。しかも実年齢を気にしてナーバスに陥る誕生日前のこの時期に。  しっかりしろ俺。  自分の感情より柊を支えるのが俺の一番の務めだろ⋯⋯! 「だ⋯⋯大丈夫! 柊のお肌は十代でも通用するし、俺、ドフラミンゴみたいな衣装のシュウも大好きっちゃ⋯⋯! みんなもきっと好きになるっちゃ⋯⋯!」 「ほんと⋯⋯?」 「ほんとよ! 俺がちゃんとエスコートするからそんな悲しい顔せんよっ⋯⋯!」 「タイチ⋯⋯♡」  そう、俺は柊のしもべ。ロングレッグは秘密結社のボスで正義の味方シュウの側近。これ以上のハマり役があろうか。如何なる時にも隣に立ち、柊を守る柊の味方。それこそが俺の生き甲斐、俺の歩む道なのだ。 [はーい。じゃあ全て承諾と言う事でビクトリア社にも報告しまーす。スケジュールは追って連絡しますので体調のほか美肌にも注力お願いしますねー。お疲れ様でしたー]  森さんはテレビ会議の画面からブツっと消えた。退出した。柊も素の顔に戻った。  ん?  俺、またいいように乗せられた気がする⋯⋯⋯⋯
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