月冴ゆる

2/16
前へ
/19ページ
次へ
 冬が来た。  2021−2022、このシーズンは特別。例年とは違う。  毎年11月にはカナダ・モントリオールへ旅立つ柊も碓氷村に引きこもり、日々のトレーニングに余念がない。  そして現地に赴くことはないものの。  エクストリームスポーツイベントの最高峰と称される『EXTREMES(エクストリームズ)』主催者のお一人且つスポーツブランド『LAWLESS(ローレス)』CEO、ロジャー・ハミルトン氏とのリモート会議が頻繁に行われている。自宅リビングの炬燵部屋で。 [シュウがいないと寂しいよう。不安だよう] 「大丈夫大丈夫! ロジャーには実績がある! ローレスには実力がある!」  俺は画面に映り込まないようそーっとハーブティーと茶菓子をお持ちする。柊のお仕事の邪魔をしないよう黒子に徹する。この人は忙しいのだ。構って貰えないのは当然なのだ。 [シュウ、ソレ……何食べてるの] 「金柑入りの月餅(げっぺい)♡タイチが作ってくれた〜♡」 [キンカンってナニ!] 「Well⋯⋯well⋯⋯Kumquat(カンクワット)?」 [Kumquat! ナランハ・チナ! マムがよくジャムを作ってくれた! おいしい? おいしい?] 「美味いよー♡酸味と甘味のバランスが最高♡お茶にも合うしコバラにもちょうどいいし喉にもいいし♡」 [─────ズルい! 僕も食べたーい!]  こーゆー何もないようなところで脱線するのもいつもの事ではあるけれど、この時期ロジャーはとってもナーバスになる(らしい)ので、柊なりにガス抜きさせてあげている(らしい)。  ちなみに金柑の蜂蜜漬け(シロップ)は喉にいいと確かに聞いた事はあるが、実のほうを白餡と生地に包んで焼き上げたものに効果があるのか定かではない。つーか月餅、俺は寧ろ喉が渇くぞ。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加