また増えた

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また増えた

寝ていたところを叩き起こされて、目をシパシパさせたメルに、莉里は言った。 「うっかり綺麗にさせたら、思いの外気持ち悪いから、行ってこいなのよさメル」 3時間ほど寝た水色は、目を覚まし、じゃあ行くかと窓の前に立った時、突如莉里はメルを叩き起こしたのだった。 「これ以上、知り合いの子の保護者になるのはなあ」 「うにゅう。眠うございますよう。莉里様」 手近な赤ん坊(水色)を抱いて、うなじをクンクンしていた。 「正男、一応メルはフルート吹いてるのよさ。演奏旅行で面倒見てやるのよさ。ほら」 莉里のステッカーがベタベタ貼られたケースを渡していた。 親父はリュート弾いてたな。息子はフルートか。 「おい、大丈夫か?坊主」 「莉里様が行けって言うから行くんだい」 「だったら、背中にしっかり捕まってろ。手え離すなよ?」 左腕に水色を抱き、背中にメルを背負い、東の方向に混元傘mk-2を向けた。 アメリカを東に抜け、大西洋を越えてイギリスに降り立つ。 目指すはロンドン。ロイヤル・アルバート・ホール。 水色は抗わなかったが、メルの奴はどうかな? 正男は、赤い火線になって、反対側の窓を貫通して飛び去っていった。 「やれやれだわさ。窓くらい開けて出ていくのよさ。狸右衛門!窓直しとくのよさ!クティーラ。今日は久しぶりに一緒に寝ようよさ」 「メルの奴がおらぬ、久方ぶりの平穏な睡眠じゃの。毎度毎度襲いかかっては焼かれておったが」 「ちと焼きすぎたのよさ。禅寺の暫到(ざんとう)並に煩悩滅却したみたいになってるのよさ」 暫到は、出家したての見習い坊主だった。 なるほど。普段は鬱陶しいが、いざいないとなると寂しいのであるな。 メルよ。プッシュしすぎなのも、莉里にはよいかも知れぬぞ。口には出せんが。 悠久の時を生きた旧支配者の娘は、大好きな莉里の子を凄く凄く抱きたいのだった。 早う来い(メル)よ。莉里は今、ようやく孕み頃であるぞ。 クティーラは、大好きな親友の赤ん坊の誕生を、夢見るままに待ちいたると決めていたのだった。
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