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カルテット
無事、ロンドンまで飛んだ正男は、空港でなく船の港に降り立った。
税関は基本、いくらでも誤魔化しようがあったのだが、正男のネームバリューの凄さは甚だしく、顔パスだったのが、かえって罪悪感を覚える入国となった。
空も平気だったもんなあ。アメリカは怒ってたろうな。ブルのおっさんは。
まあ、戦闘機じゃ無理だろうし。イギリスとアメリカじゃあなあ。
「ところで、お前も大人しくしとけよメル。父ちゃんが知ったら怒るぜ?」
ん。水色の匂いが気になるのか、周囲をクンクンしてメルは、
「戦うべき時は戦うのを躊躇ったりしないよ僕は。ミズイロちゃんが落ち着く場所に行こうよ早く」
そりゃあまあ確かになあ。
水色の警護か。定岡どうしたのかな?
定岡ルシ男は、正男が勘解由小路家の隣に家を建て、ハナちゃんのお腹の中に梨花がいた頃、もうあいつの秘書をやっていたようだった。
偉そうな議員秘書が、今じゃ赤ん坊のご機嫌とりって、プライドないのか?あいつはと思ったんだが。
本気で水色を守ろうとしてたのはホントだった。
要するに、あいつルシファーなんだよな?
子守り悪魔って、ピッタリだな今なら。
そう思っていると、知っている人間が待っていたのに気付いた。
「マサオ・シロガネ」って手書きで書いた画用紙の半切れを持っていた。
「ネビル!ネビル・アンダーソンじゃねえか!」
ネビルは、イギリスでは結構知られたジャズベーシストだった。
「ここで待ってろって、あいつから指示があったんだ」
ああ。あいつね。
ネビルとは、前に「セレニティ」というスタンダードなジャズアルバムを正男がリーダーで作成した時、カルテットのメンバーにいたのだった。
更に、話を聞いたところ、ネビルは、大学生だった頃の勘解由小路を知っていたらしかった。
しかも、勘解由小路が嫁由小路と正式に入籍する前の、クイーン・エーゲ号の騒動にもかち合っていたという。
他人とは思えんのだよなあ。ネビルは。
勘解由小路の派閥はワールドワイドだったらしい。
「今回は世話になるよネビル。ドラムのラルフも元気か?」
「ああ。うん。ラルフに嫁とか結婚とかの話はなしで頼む」
ああ。ついになあ。
ラルフ・ギーゼマンも、勘解由小路のコネで引っ張ってこれたクイーン・エーゲ号の生き残りだった。
「ホテルに着いて一息吐いたら、メル、フルート聴かせろよ。ジャズフルート行けるか?」
「ハービー・マンは一頻り。チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエバーは家で聴いてた。当たり前に吹けるんだい。僕は」
おおそうか。ちょっと楽しみになってきたな。
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