恐怖のおもてなし

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「いらっしゃいませ」  店内に入ると人を何人か葬っていそうな顔つきの従業員が出てきた。 「あ、どうも」  思わず怯む和也。  デカイな。こんなのに殴られたら一発であの世行きだな、などとレストランで物騒なことを考えてしまう。 「何名様でしょうか」 「一人です」  どう見ても一人しかいないのに何で人数を確認するんだ。  和也は後ろを振り返る。誰もいない。何故だ。何故人数を確認したんだ。  店員の強面と別の恐怖が和也を支配する。 「こちらへどうぞ」  通された席は五、六人が座れるソファー席だった。 (いるのか!? やっぱり俺の周りに誰かいる!?)  例えば幽霊の団体様とか…… 「ご注文が決まりましたらお呼びください」  つまんない用で呼び出したら絞めるからな、という幻聴まで聞こえてきた。  ソファー席の端で縮こまりながらメニューを開く。 「こ、これは……!」  値段が書かれていない。  和也に新たな恐怖が襲いかかってくる。 「どうしよう。俺三千円しか持ってないよ……かといって何も頼まずに出てったら殺されそうだし」 「……どうぞ」 「ひゃっ」  コト、とグラスが置かれた。この水も料金がとられるのだろうか。 「ご注文決まりましたら申し付けください」  店員が厨房の奥へ消えていく。  早く決めろよこの野郎、と軽めに脅された気がして焦りと恐怖でメニューを持つ手が震えだす。 「とにかく一番安そうなもの……」  しかし、メニューの名前がやたらと長くヘンテコなものが多くて一体何の料理で何の素材が使われているか全くわからない。あとドリンクの種類が無駄に多い気がする。 「どうぞ」 「へあっ!?」  いつの間にか店員がいて、新たに水の入ったグラスを渡された。  何故新たにグラスを置く。 (いるのか!? やっぱり自分以外に誰かいるのか!?)  緊張で水が進む和也にワンコそばのようにグラスを渡してく店員。  七つ目のグラスを空にしたところで我に返る。  この水は料金に含まれるのか。まさか追加料金にされてないだろうか。 「ご注文が決まりましたら」 「あ、あの! このお水は有料なんですかね?」  店員の言葉を遮って聞いてしまった。しまった殺される!  しかし、和也の質問に強面だった店員からは間抜けな声が飛び出した。 「えっ。お水ってお金とるんですか?」 「え?」 「すみません。自分店を経営するの初めてなもんで、そういうのよくわからなくて」 「そ、そうなんですか」 「お客様のグラスが空になってたからおかわりを出さなきゃと思った所存です」 「普通おかわりは空いたグラスに注ぐんですよ! 洗い物大変なことになっちゃいますよ!」 「あ、そうなんですか」 「ちなみに僕をソファー席に通したのは」 「ゆったり落ち着ける席の方がいいと思って。生憎誰もお客様がいないですし、ははは」 「あはは……いや反応に困る」  よかった。霊的なものが憑いてるわけではなかった。 「すみません、この日替わりランチ的なもの何円ですか。値段が書いてなくて」 「本当だ、メニューの写真で値段載せるスペース取りすぎちゃって。八百円です」  写真の量の割りに安い。やっていけるのかこの店。  とりあえず懐の心配はしなくて済みそうだ。 「じゃあそれで」 「かしこまりました……あ」 「どうしました?」 「レストラン開店以来初めての日替わりランチだから何出していいかわからないんです。日替わり初日だし、何をお出ししよう。いきなりトンカツはもたれるか。初日でパスタもちょっと違う気もするし……」  ブツブツ呟く店員はまるで呪詛を吐いているようで怖い。怖いうえに面倒くさい。 「あの、じゃあこのカレーみたいなのでお願いします。ちなみにおいくら?」 「(はらわた)カレーですね。七百円です」 「じゃあそれで」 「かしこまりました」  店員は厨房へ早足で消えていった。  もしかしてあの人一人で切り盛りしてるのかな。  だとするとあの人が店長だな。従業員を雇うほど忙しくはないだろうが大変だな、と和也は思った。 「ていうか、腸カレーってなに?」
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