恐怖のおもてなし

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「お待たせしました」  腸カレーがテーブルに到着した。 「味は普通にうまい」 「ありがとうございます」  まだいた店長にカレーを吹き出す。普通にとかいらんことを言ってしまった。 「こ、このお肉美味しいですね。腸でしたっけ。どこらへんですかね」  苦し紛れに変な質問をしてしまった。 「ここですよ、ここ」  自分の腹を叩く店長。何故ジェスチャーを使う。普通に言葉で答えればいいのに。  カレー完食。  余裕が出てきたところで店内を見渡す。 「……にしても変わったレストランだよな」  照明は薄暗いし、店内で流れる音楽もどことなく陰気。変な観葉植物や不気味なオブジェが並んでいる。  しかし、慣れてしまえば味のある感じで嫌いではない。 「店長はあんな顔だけど喋ってみたらいい人そうだし、外観と雰囲気で損してるな」  第一印象って大事だなと思ってしまう。 「まいどありがとうございます」  レジの前で店長が立っていた。  お会計をしよう財布から札を出そうとすると腹に痛みが走った。 「……う、腹が」 「え、大丈夫ですか!? どうしよう、初めてのお客様に初回特典のように食中毒を出すなんて!」 「いやたぶん水の飲み過ぎだと……」  ていうか初めての客だったんかい。 「トイレ借りてもいいですか」 「もちろん! どっさり出していってください」  店内奥の長い廊下を歩く。薄暗い店内よりさらに暗い。 「いててて……」  腹をさすりながら男子トイレの個室のドアノブを捻る。  しかし扉は開かなかった。  よく見るとドアノブの色が赤くなっていた。誰か入っている。 「すみません! 後で来ます」  そそくさと廊下へ戻る。 「参ったなぁ。どのくらい待つんだろう」  お腹の痛みと戦いながら和也は長く暗い廊下を行ったり来たり。  往復した回数が二桁になるくらいで和也はさっき起きた出来事がおかしいことに気づいた。 「お店に客なんていなかったよな?」  お会計の時、店長は和也が初めての来客者だと言っていた。他に客なんていないはずだ。  自分の顔から血の気が引いたと同時にレジへ駆け出していた。 「あの……! ト、トイレに誰かいるんですけどっ」  肩を上下させながら店長に訴える。 「ええ? お客様以外のお客様なんていないですよ。何かの間違いでは?」 「だって、個室のドアノブが赤色で、鍵がかかってて!」 「ああ、あれ掃除用具入れですよ。手前にあるから間違えやすいですよね。個室はトイレの一番奥です」 「まったく、ややこしいな」  言われた通り一番奥には個室があった。  用をたし、手を洗う。  後ろを見ると掃除用具入れのドアノブは相変わらず赤色だった。 「はー、すっきりした」  嘘だ。全然すっきりしていない。  だって普通掃除用具入れにドアノブ機能なんてない。あれは絶対誰か入ってる。しかも返事を返せないほどずっと前から。  和也は一刻も早くこのレストランから出たかった。
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