初めてのデート

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     廊下を歩くと、金属鎧や武闘服、魔法士のローブを着た者たちとすれ違う。彼らは皆、こちらへ奇異の視線を向けてきた。  ここは冒険者組合(ギルド)の寮だから、冒険者が闊歩するのは当然だ。僕も寮で暮らす冒険者の一人であり、いつもならば注目を浴びるはずもなかった。  しかし今日は普段の皮鎧ではなく、おしゃれなスーツで身を固めている。ボサボサ頭も整髪料で撫でつけており、どう見ても冒険者らしくない格好だ。目立つのも仕方ないだろう。  いや、格好だけではない。僕を取り巻く空気も特別に違いない。なにしろ今夜は、可愛いあの子との初デートなのだから!  彼女の名前はリリィ。僕の行きつけの酒場で働く女給仕だ。冒険者組合(ギルド)よりもメシが美味いので毎日のように(かよ)っていたら、自然と顔馴染みになり……。  いつの間にか、僕の中に「もっとリリィと仲良くなりたい」という気持ちが生まれていた。自覚して一週間くらいは悶々としていたけれど、思い切ってデートに誘ってみたら、簡単にOKしてもらえたのだ。  ウキウキした気分で寮を出る。  とっくの昔に太陽は沈んでいるが、街灯として設置された魔法灯のおかげで、夜の街は十分に明るい。  すっかり通い慣れた道を歩いていると、酒場の手前にある店の前で、声をかけられた。 「お兄さん、今日はビシッと決まってるねえ。デートかい?」  花屋の女主人だ。名前は知らないが、いつも店番をしているので、顔は覚えてしまった。彼女の方でも同じなのだろう。  無視するのも悪いので、足を止めて適当に挨拶する。 「ああ、うん。まあ、そんな感じかな」 「若者はいいねえ。あたしも若い頃は色々あったけど、今じゃすっかりオバサンさ」  花屋はニッコリと笑顔を浮かべた。僕の幸せを、まるで我が事のように喜んでくれている。 「お兄さん、ひとつアドバイスしてあげるよ。女性を口説く上で大切なのは、ムードとプレゼントだからね」 「プレゼント……?」  リリィがいる酒場はすぐ近くだ。今さらプレゼントを買いに行く暇なんてないのだが……。 「花束もプレゼントには最適だよ。どうだい、ひとつ?」 「ああ、なるほど。だったら、お願いしようかな。花には詳しくないから、花の種類はお任せで、予算はこれくらいで」 「まいどありー!」  リリィの喜ぶ(さま)を思い浮かべながら、ちょっと奮発して、大きな花束を購入。真っ赤な薔薇の良い香りと共に、僕は再び酒場へと歩き出した。    
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