「運命―さだめ」

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 手始めに杉崎玲が行ったのは、無傷で人に攻撃が出来るかの武器で、田村(いち)の能力を測ることだった。  その武器とは、一度(ひとたび)ノックをすれば手に痺れをきたす、雑貨店などで見受けられる、あのペンだ。  杉崎玲はそのペンを、誰にも気づかれないように田村(いち)のペン立てにさりげなく差す。ペンの柄はよくあるもので、田村(いち)のペン立てにもよく馴染んだ。  仕込みを瞬く間に終わらせた杉崎玲は、何事もない様子で業務に戻る。  オフィスには向かい合った二列のデスクが二組ある。その二組の間は幅が少し広く、一番奥に上司のデスクが扉に向き合って鎮座する。  田村(いち)のデスクはオフィスの出入り口から向かって一番左側の一番手前。  対する杉崎玲のデスクは、向かって一番右側の手前から三つ目。  つまり、杉崎玲は田村(いち)の様子が二列越しによく見えるのだ。    どこかから自身のデスクに戻った田村(いち)。  以前何の職に就いていたのかは不明だが、仕事が出来るタイプであることは間違いない。この職場に姿を現して間もない今でも、田村(いち)は業務をすんなりこなしている。  そんな田村(いち)を観察しながら、杉崎玲は何とか落ち着きを保っている。
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