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何度も敵の行動に目線を向けていれば、「怪しい」の四音が杉崎玲にかけられる。それを許す程、杉崎玲も無能ではない。
杉崎玲は職務に集中している様子で、ノートパソコンから放たれるブルーライトを顔全体で受け止める。そして時折、思考を巡らすふりをして、パソコンの画面から一センチ程目線を高く上げる。その時間はわずか数秒。目の前のデスクに座る同僚ならまだしも、数メートル先にいる田村逸が杉崎玲の目的に気がつくはずもない。
まるで違和感のない杉崎玲の観察行為だが、肝心の田村逸は一向に変った様子を見せない。
痺れを感じていないふりをしているのか、
田村逸の手の皮が電気を通さない程分圧なのか。
理由は何であれ、見る限り田村逸は杉崎玲の望むようには動かない。
少し近くに行ってみようかと思い立った杉崎玲はおもむろに席を立ち、出入り口の隣にある休憩のスペースに向かう。そこはシンクやケトルが設備されたスペースで、社員は時たま一息吐こうと、主にコーヒーを注ぎに行く。
その一社員として装い、杉崎玲はためらいも見せず真っ直ぐにスペースに入った。
手始めにケトルに水を入れ、電気プレートにそれをセットし、湯を沸かすためのスイッチを入れる。水が沸騰するまでの間、二日前程に購入して置いてあるインスタントのコーヒーパックを一つ取り出し、自身のマグカップにセットする。
もちろん、一連の動作の合間に田村逸を横目に見ることを忘れない。
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