第四章 私を見つけて

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********* 流石に外のテラスは寒くて誰も食事をしていない。 仲の良い友人達と食堂でランチを終え、友人が教務課に提出物があるというので世依は付き添っていた。 「でさ、彼氏が社会人だと色々会話にずれがね」 毎回彼氏と喧嘩をしては仲直りをしている友人がまた愚痴をこぼしている。 それに世依も友人も毎度のことだと適当にあしらうので、本人は不満をその点でも話し出した。 「まだ人気だねぇあの人」 教務課の窓口に向かった彼氏のいる友人を世依は見送り、もう一人と離れたところで眺めていればその友人が口にした。 「窓口の人だっけ」 「そう、あのわんこ系の童顔男子」 窓口には学生達が笑顔で彼に話しかけ、松井は困ったように笑いながら頭を掻いている。 「世依は興味なさそうだね」 友人が笑うと、 「今の一番の興味は今晩のメニューだね」 わざと真面目な顔で答えれば、世依らしいと友人は笑い、提出してきた友人も戻ってきて三人は背を向ける。 松井が真っ直ぐにその背中を見ている事を、そこにいる学生は誰も気がつかなかった。
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