第一章 表の斎王と裏の闇夜姫

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********* カタカタと部屋に響いていた音がピタリと止む。 男はキーボードから手を放すと、丸まった背中を伸ばすように両手を挙げて伸びをした。 元は真っ白だったであろう部屋の壁は薄いグレー。 研究室のエアコンは既に十年を経っているせいか効きが悪い。 二月に入ったが埼玉の奥地という場所柄もあってか底冷えする寒さで、いい加減エアコンが突然死しない前に買い換えて欲しいものだ。 急に寒さを感じてぶるりと身体を震わせると、近くの椅子に放り投げていた白衣を取るため立ち上がって乱雑に取り腕を通す。 放置しっぱなしだった白衣は冷え切っていて、着るのは間違いだったかもしれない。 白衣は科学の研究をしているからでは無く、ただ洋服に無頓着な男にとってとりあえず羽織っておけば良いという便利さから着ているため、むしろトレードマークになっている。
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