日本買います

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 研究室に全員集まり、応接スペースのテーブルに並んで座って、渡たちは宮下の説明を聞いた。遠山がしきりに感心した口調で言う。 「その話なら聞いた事がある。僕の専門じゃないけど、マウスが檻を突き破って逃げ出して大騒ぎになったとか。確かに人間にあれを移植したら、あの超人的な肉体能力を持たせられるかもしれない」  宮下が訊く。 「ですが、兵頭教授は人間に移植した事はないと言っているそうです。動物実験でもまだ安全性が確認されていないと」  遠山がうなずきながら言う。 「僕が聞いている話では、移植後の人工筋肉の寿命が短か過ぎるんだそうだ。マウスだと半年で人工筋肉が機能不全を起こして死んでしまうらしい」  渡があごひげをしごきながら言う。 「兵頭教授があずかり知らない所で、こっそり人体実験をやった連中がいるのかもしれんな。国際的なテロリスト集団なら可能かもしれん。いずれにしても明日にでも兵頭教授と話をしてみたい」  宮下は深くうなずいて、トートバッグからあの封筒を取り出し、松田に向かって言った。 「松田さん、例のプロ野球選手の件、調べてもらいました。この人物に間違いない? 松田さんが見た、あの怪人の仮面の下の顔は」  宮下が封筒から書類と一緒に取り出した写真を見て、松田は大きくうなずいた。 「はい、自分が見たのは、まさにこの顔でした。柳健太郎さんです。こう見えて自分は元野球少年でして。高校時代は野球部で、まあ最後まで県大会準優勝止まりで甲子園には行けなかったんですが。その頃のあこがれの選手でした」  筒井が遠慮がちに口をはさむ。 「うちの社の運動部にも聞いてみました。球団でのポジションは一塁手、一時は毎年、ホームラン王まであと一歩という期待の若手だったそうですね」  松田は子供のように目を輝かせながら興奮気味にまくし立てた。 「いや、もうあの頃はすごかったですよ。なんたってホームランの実に4割が場外まで飛んだんですから。3年前の、あのケガさえなければ」  筒井が手帳を見ながら言う。 「走塁中に相手チームの野手と衝突して右足を骨折。シーズン後に自由契約になって、その後いろんなチームのセレクションを受けるも体調が元に戻っていなくて全て不合格。そのまま話題に上らなくなって忘れ去られたみたいですね」  宮下が封筒から取り出した書類を読みながら言う。 「2年ほど前から所在不明のようです。と言っても、住所地の役所には転出届を出しているし、住んでいた賃貸マンションも契約解除をちゃんとしていますから、行方不明になったというわけではなさそうね。ただ……」  松田が身を乗り出して宮下に尋ねる。 「ただ、何です? 何か不審な点でも?」  宮下は小首をかしげて答える。 「不審という程でもないんだけど、いなくなる直前に親しい友人たちに、元の体を取り戻せるかもしれないと話していたそうです。渡先生、遠山先生」  宮下は二人に顔を向けて訊く。 「元々優れた身体能力を持っていた人物にその人工筋肉を移植する、そういう誘いを受けたという可能性は?」  遠山が答える。 「非合法な人体実験をためらわない連中がいたとすれば、あり得るな。そして成功したとすれば、あんな超人的な身体能力を持つ怪人になったとしても不思議はない」 「やれやれ」  渡が大きくため息をつきながら言った。 「私が子どもの頃の特撮テレビドラマとかには、そんな設定の番組がたくさんあった。そんな事が現実に起きる時代になったとはな」
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