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同じころ、六本木のタワーマンションの最上階、ノーヴェル・ルネッサンスの本部。目の周りを装飾されたマスクで隠した、あの青い瞳の少女が般若の面の男と向かい合って立っていた。
般若の面の男の背後で、黒いスーツの別の男が立ったまま少女に向かって説明をしていた。
「誘拐犯の潜伏場所が特定できました。秩父山地の麓です。人数は10人。銃で武装していると推測されますが、まあ拳銃程度でしょう」
少女が平然とした口調で訊く。
「それでそいつらの身元は?」
「中東を拠点とする宗教的過激派です。不法入国のテロリストたちですので、こちらの素性を探られる心配はないかと」
目元を仮面で隠したメイド服姿の年長の女性が少女に耳打ちした。
「兵頭教授の奥様が警察に通報してしまったようです。いかがしましょう?」
「あらら。まあそっちは好きにさせて。教授のお子さんたちを救出できるなら、別に警察でもいいし。日本の宝になる科学者の頭脳流出を食い止めたと思ったら、こんな事に巻き込まれるなんてね。兵頭教授が直接あたしたちに助けを求めて来たんだから、何としてもお子さんたちは無傷で救出するのよ」
般若の面の男はまっすぐ立ったまま、一言も発さずにいた。少女は眉をしかめて般若の面の男のすぐ前まで歩み寄り、自分の仮面をはずした。まだあどけない顔つきが露わになる。だが般若の面の男は微動だにしない。少女がやや
きつい口調で般若の面の男に言う。
「あたしの顔を見て驚かないの?」
般若の男は無言で首を横に振る。少女はさらにきつい口調で彼に命じる。
「その面を取ってそこに膝をつきなさい。頭を見せて」
男はすぐに般若の面を外した。元プロ野球選手、柳の顔がそこにあった。そのまま少女の前でひざまずいた姿勢を取る。少女が柳の前髪をかき上げると、長い傷跡が数本、額に残っていた。少女の声が怒りを含む。
「話が違うじゃん」
後ろの黒いスーツの男が静かな口調で少女に問う。
「何か問題ですか、会長? 他の手段を探せとおっしゃるなら、時間はありますが」
少女は少し考えて黒いスーツの男に言った。
「いえ、万一の事を考えて今すぐに動いて。奪還作戦は予定通りに」
少女は柳に向き直って命じた。
「ここから先の事は彼の指示に従って。行きなさい」
柳は無言でうなずき、表情という物が全くない顔つきで立ち上がり、般若の面を付け直し、黒いスーツの男の後に続いて部屋を出て行った。
少女はメイド服の女性に鋭い口調で命じた。
「中東支部長とテレビ会議システムで話をする。用意して、今すぐ!」
約10分後、少女は窓のない部屋で大きな液晶スクリーンの前で椅子に座っていた。画面に光が灯り、アラブ人とおぼしき外見の、10歳ぐらいの男の子の姿がそこに現れた。彼はアラビア語で少女に話しかけた。
「やあ、ヒミコ。久しぶりだね、急用かい?」
ヒミコと呼ばれた少女はきっとした顔つきと目つきで、日本語で答える。
「強化改造人間計画に脳改造による洗脳は含まれていないはずよ。どういう事?」
「何だって? あのヤナギという日本人の事を言ってるのかい?」
少年はアラビア語で返答する。通訳も字幕も介さず、二人はお互いの言語を完璧に理解しているようだった。
「そうよ。あたしが直接確認した。あれは脳改造手術の痕に間違いない。あれじゃロボットと同じ。本人の意思を無視するなと厳命したはずだけど」
「分かった。こちらに何か手違いがあったようだ。少し時間が欲しい。大至急調べる」
「事情が判明したらすぐに知らせなさい」
少女が椅子のひじ掛けのスイッチを押すと、画面は消えた。
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