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翌日の朝9時、渡と松田は強奪劇の舞台となった豪邸にやって来た。屋敷の周りは警察の規制線のテープで囲まれていたが、渡が見張りに立っている制服警官二人に名前と要件を告げると、テープを上げて中に入るように指示された。
二人が靴の上から覆いになる布をかぶせ、靴を履いたまま玄関から廊下に上がると、鑑識の係員数人の端に宮下が腕組みをして立っていた。
宮下は二人に気づくと、鑑識の邪魔にならないよう少し離れた位置に手招きで誘導する。顔を突き合わせて渡が訊いた。
「一体何の事件なんだ? 強盗事件なら渡研の領分じゃあるまい」
宮下は壊されたドアや突き破られたガラス窓などを指差しながら、昨夜の一連の出来事を二人に説明した。渡が考え事を始めた時の癖で、あごひげをしごきながら言う。
「なるほど。本当だとしたら普通の事件じゃないな。で、その3人の警備員はどうなった」
「命に別状はないそうですが、全員が全治1か月から6週間の重傷です。問題は3人とも、通常の警備員ではなく、格闘の訓練を受けたプロだった事です。うち一人はフランスの傭兵部隊に所属した事まであるとか」
「そこまで厳重な警戒が、あっさり突破されたわけか」
突き破られた廊下のガラス窓を近くでながめていた松田が渡に声をかける。
「渡先生、これは普通の窓ガラスじゃありません。防弾仕様の特殊強化ガラスですよ。陸自の装甲車両にも使われているタイプです。これを体当たりの一撃でぶち破るなんて、人間業じゃないですね」
渡はあごひげをしごき続けながら宮下に言う。
「これがある種の怪奇事件だという事は理解した。渡研に協力依頼が来るはずだな。それで強奪された物にも、何かいわくがあるのかね?」
宮下は素早く周りを見回して、そっと小声になった。
「その辺りの詳しい情報は、渡研の研究室で話しましょう。筒井さんにも既に情報収集を頼んであります」
三人は屋敷を出て、宮下が運転する乗用車で帝都理科大学内の渡の研究室へ向かった。
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