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それから3日後、警視庁から渡研にある依頼が届いた。研究室で宮下警部補から説明を聞いた他のメンバーは、口々に疑問と不満を口にした。渡が憮然とした顔で言う。
「護衛をしてくれと? うちは警備会社じゃないぞ」
宮下が困り果てた表情で愛想笑いを浮かべて言う。
「もちろん、警察の護衛が付きます。あくまでそれに同行して欲しいという事でして」
松田がテーブルの上に広げられた資料の写真を見つめながら宮下に訊いた。
「これは陶器ですね。値打ちのある物なんですか?」
「室町時代後期に作られた香炉だそうです。当時の中国か朝鮮半島からの輸入品だと思われていたので注目されていなかったんですが、最近の研究で信楽焼だと判明しました。つまり国産品だったんです」
遠山も写真を見つめてしきりにうなずく。その掌に乗るほどの大きさの陶器は、赤茶色の滑らかな表面の壺状の胴体と、下部に隙間がある蓋で構成されている。
表面には、元は鮮やかな発色だったのだろう、くすんだ赤、緑、金色の細い帯が描かれている。遠山がつぶやく。
「僕は素人だが、それでも美しい物だというのは分かる。国産品なら確かに日本の貴重な文化財になるだろうね」
筒井が首を傾げながら宮下に訊く。
「羽田空港まで護衛というのは、どういう事なんです?」
「所有者が中国の富豪に売る事になったの。文化庁は止めたんだけど、文化財に指定されていないから、民間の商取引には介入できないそうで」
渡がなおも訊く。
「だったらなぜ警察が護衛する?」
宮下が必死に愛想笑いを浮かべながら答えた。
「例の般若の面の怪人ですよ。現在の所有者が、とある国会議員を通じて、警察の警護を要請してきまして」
「なるほど」
松田が我が意を得たりという表情で言った。
「この陶器の運搬の護衛に付き合えば、その怪人を待ち伏せできるというわけですね」
渡がまだ納得できないという表情で言った。
「とは言え、日本の貴重な文化財を外国に売り飛ばすという話だろう? 私はむしろあの怪人に持って行ってもらいたい」
宮下が愛想笑いをさらに浮かべて渡に懇願した。
「そうおっしゃらずに、渡先生。これ以上あの怪人に好き放題をさせるわけにもいかないでしょう?」
顔をしかめたまま、渡はしぶしぶ依頼を引き受けると言った。
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