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それは名古屋からやって来た小型のビジネスジェットだった。操縦席のパイロット、機長と副操縦士は、羽田の管制塔からの無線の内容に、一瞬口をあんぐりと開けた。
機長が馬鹿馬鹿しい、という表情でつぶやく。
「この機の中、じゃなくて、上に人が乗っているだと? 何かの見間違いに決まっているだろう」
副操縦士も笑いを含んだ口調で言う。
「いくら小型と言ってもジェット機ですからね。もし名古屋で取り付いたとしても、とっくに振り落とされているはずですよ、人間なら」
ビジネスジェットは指定された滑走路に無事着陸し、ハンガーまで機体を牽引する特殊車両が近づいて来た。奇妙な通報があったため、セダン型の警備員の車も近づいて来た。
計器の点検を終えたところで、副操縦士が窓の外を見て悲鳴を上げた。
「うわ、何だ!」
機長も息を呑んだ。オートバイのレーシングスーツの様な真っ黒な服を着た人影が、操縦室の窓伝いに機首に降り立つのが見えたからだった。
警備員が二人、車から飛び出してその人影を制止すようとする。人影が振り向くと、顔は金属製の般若の面で隠れていた。
その怪人は飛び掛かった警備員二人を軽々と数メートル先まで投げ飛ばし、警備員が乗って来た車に乗り込み、国際線ターミナルに向かって全速力で向かった。
車が滑走路を突っ切って疾走したため、離陸を待っている飛行機が待機する場所は大混乱に陥った。かまう事無く怪人は車を走らせて国際線ターミナルビルの横に停まり、般若の面の怪人は車を降り、車の天井に跳び上がり、そこからさらにターミナルビルの窓に向かって、10メートル以上跳び上がった。
荷物の受け付けをしていた、香炉の所有者の男と、警官の一団、渡研の面々のいる場所の、そばの窓ガラスがけたたましい音とともに砕け散った。
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