日本買います

8/20
前へ
/20ページ
次へ
 今まさに、航空会社のスタッフが香炉の入った箱を受け取ろうとしているところへ、外から窓を突き破って、般若の面の怪人が飛び込んで来た。  箱をカウンターの上に置いたまま、航空会社のスタッフたちは奥へ引っ込む。その場の全員が茫然としている中、般若の面の怪人は素早く箱が置いてあるカウンターに駆け寄る。  直前で松田が立ちふさがった。松田がコートを脱ぎ捨てる。その下は陸上自衛隊の野戦服だった。ボクシングのようなポーズを取り、松田は怪人に向かって足を踏み出す。  怪人は特に身構える事もなく、すたすたとカウンターに向かって歩く。松田が身を低くしてラグビーのタックルの要領で怪人の腰に体当たりした。  怪人の体はびくともしなかった。身長186センチ、筋骨隆々の松田が顔を真っ赤にして全力で押し戻そうとするが、怪人の体はじわじわとカウンターに近づいて行く。  松田が隙を見て、下から右手を突き上げ、怪人の面を剥いだ。30代前半ぐらいと思われる男の顔が一瞬見えた。松田が愕然とした表情でつぶやく。 「その顔は……柳選手?」  松田の体の緊張が一瞬緩んだ。怪人の両手が松田の体をつかみ、軽々と引っぺがして、宙に放り投げる。松田の体は完全に宙に浮き、10メートル先の床に叩きつけられた。  怪人は面を付け直し、床に倒れてうめいている松田には目もくれず、カウンターのたどり着いて香炉の入った箱を手でつかんだ。  箱を手に持ったまま、所有者の男に歩み寄る。恐怖で腰を抜かして床に座り込んだ所有者の前に立つと、怪人は腰の後ろのポケットから金の延べ棒を取り出した。  怪人は金の延べ棒を前に放り出す。ゴトリという音を立てて、延べ棒は所有者の男の股間のすぐ前に落ち、所有者の男は「ヒッ!」と悲鳴を上げた。  そして怪人は箱を持ったまま、ターミナルビルの外へ向かって走り出した。 宮下が拳銃を手に構えて後を追って走る。  待合室などのスペースを通り抜け、怪人は軽々と走り去って行く。宮下も全力疾走するが、みるみる距離をあけられてしまう。  ターミナルビルの外へ飛び出し道路を見渡すが、怪人の姿は完全に宮下の視界から消え去っていた。宮下は拳銃を脇のホルスターにしまいながら、息を切らしてつぶやいた。 「あれは人間じゃない。生身の人間にこんな事が可能なはずはないわ」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加