10、衣装は濡れて

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10、衣装は濡れて

 台本の大幅な変更が発表されてから一週間。  それぞれが練習を重ね、混乱はやっと落ち着きつつあった。  そして今日は衣装合わせの日。  美術にも衣装にも多大な額の予算がかけられていて、お披露目された衣装は細部までこだわった豪華なものだった。  そして、実際のドレスを着た比奈川が現れたら、女子はキャーキャーと叫び、男子は手を叩いて涎を垂らすという状態だった。  たくさんの拍手に囲まれて、比奈川は顔を赤くして恥ずかしいと言って微笑んでいた。  シンデレラの衣装は晴れた美しい空のような水色。金色の髪を高く結い上げたスタイルで、メイクをされた比奈川はどこからどう見ても可愛らしいお姫様だった。  それに対して俺は……… 「お…おぉ……、実誠。なんというか……その……」  メイクルームから出てきたところを、歩いてきた和幸にばったり会ったが、和幸は明らかに口の端を引き攣らせて困惑していた。 「だっーー! 分かってるよ。さっきも衣装係に散々似合わねーって言われたから!」 「……まあ、そう、気にするな。男で女装が似合うなんて比奈川くらいだから」  俺は良い義姉のドリゼラになったが、衣装は元のイメージが悪役だったので、緑色を基調とした毒々しいというか主張強めのドレスだった。  そして当たり前だが、男が女装している感じがモロに出ているので、さっきから散々可愛くないだの、女装が過ぎるだの言われて揶揄われてきた。  別に素敵だなんて言われたくはないが、みんなが噴き出して笑ってくるのでさすがに反応するのが疲れてきた。 「翔吾が探していたよ。今、控室にいる。台詞の確認とか言ってたけど」 「ああ……、分かった。行ってみる」  この後衣装を着たまま通しで動きの確認があるので、脱ぎたくても脱げない。  龍崎にまで笑われたら、いくら俺でも傷つくなと思いながら、演者用の控室のドアをノックした。  中から龍崎のはいという声が聞こえてきただけで、心臓がどくんと跳ねてしまう。 「あー、倉橋だけど」 「入っていいよ」  他の出演者は大部屋だが、主役の龍崎と比奈川はそれぞれ個別の控室を使っていた。 「さっき、和幸から、用があるって聞いて……」  俺は緊張しながら、ドアを開けたが目に飛び込んできた光景に途中で言葉が止まってしまった。  そこには豪華な王子様の衣装に着替えた龍崎の姿があった。  まだ上着のようなものは着ていないので、ざっくりと胸が空いたフリル付きのシャツにキラキラしたズボンという姿だったが、まるで映画のスターのようで眩し過ぎて目が眩んでしまった。  いつも下ろしている長い前髪を自然に後ろに流しているのもカッコ良くて、ドキドキしてしまう。 「な…なんだよっ、比奈川もそうだし、二人とも…。似合い過ぎだろう! 少しは脇のことも考えてくれよなー。俺なんて完全にお笑い担当みたいで……」 「いい……」 「へ?」  ペラペラ喋っているのは俺だけで、てっきり龍崎は他のやつらみたいに、大袈裟に噴き出す準備でもしているかと思っていた。  何だろうと目をやると、龍崎は口を手で押さえて顔を真っ赤にしていた。 「か……可愛い」 「はあ!? おまっ…目がどうかしてんじゃないのか!?」 「失礼な、いたって正常だよ。2、5あるし」 「視力すげっ!!」  目が良いとなると、毎日綺麗な自分の顔を見ているから、感覚がおかしくなったのではとしか考えられない。 「……さっきまで他のやつらには笑われて来たんだよ」 「確かにメイクは少し濃いめだね。後で伝えておくよ。リップの色もひどい、わざと選んだみたいだ。軽く拭き取るからこっちに来て」  手招きされて素直に鏡台の前に座る龍崎に近づいた。  龍崎は立ち上がって、反対に俺が椅子に座らさせられた。  ティッシュのようなものに何か液体を湿らせた龍崎は、それで俺の顔を拭き始めた。 「ほら、これで自然な可愛さが出た。やばっ、可愛すぎて……みんなに見せるのが悔しいな」  目で促されて鏡を見たら、先ほどよりはまだ自然に見られる顔の俺が映っていた。  といっても比奈川レベルには遠く及ばないが、これなら笑われることはないかもしれない。 「すげ……、お前って本当器用だよな。こんなことまで……」 「一時期、少しモデルの仕事もしていたんだ。全然楽しくなくてすぐ辞めたけど」 「イメージにぴったり過ぎて何もいえない経歴だ……って! お…おい!」  鏡越しにニヤリと笑った龍崎がいきなり俺のドレスの胸元にズボッと手を入れてきた。 「へぇ……ここって、パットが縫い付けてあるんだね」 「女役なんだから、当たり前だろっ、わざわざ手を入れるなよ。早く…ほら、出せって、誰か来たら……」 「やだって言ったら?」 「はあ!?」 「台詞の確認するから、こっち」  俺の腕を掴んだ龍崎はぐわっと力強く引き寄せた後、そのまま着替え用のカーテンで仕切られたスペースに押し込まれた。 「いてっ、何すんだよ」  ドンと大きな姿見に押しつけられた俺は抗議の声を上げたが、気がつくと龍崎はドレスの前のヒモを解いていて、前はばっくりと開いて全開になってしまった。  龍崎の手が俺の胸の上をゆっくりと滑っていて、思わず息を飲んだ。 「なっ、なっ、な……なに……をっっ」 「今日はこっちを可愛がりたいなって。せっかくこんなに可愛い倉橋くんが見れたのに、手を出さないなんて男じゃないでしょ」 「なっ、ばか、……おかし……こというなよ……あっ」  龍崎の指が胸の頂を捉えた。  指で掴んでぐりぐりとこねられて引っ張られた。 「は……なに……あっ……ふっぁ……!」  指で弄られて胸が熱くなってムズムズとしていたら、反対側の乳首は龍崎がペロリと舐めてきた。  舌の先を使って弾くみたいに舐めるのでくすぐったくてたまらない。  やめろやめろと悶えていたが、時々吸われたり甘く噛まれたら、ただのくすぐったさから甘い痺れに変わってしまった。 「はぁ……はぁ……やめっ……へんになっち…ゃう、じんじんするっ……やだぁ……」 「ここ、ぷっくりして赤くなったよ。いっぱい舐めたからヌルヌルして光ってる……。可愛い……」 「あああっ、かまないでっ……でちゃう」 「ふふっ…乳首舐められて大っきくなっちゃったの? エッチだな、倉橋くんは」  龍崎に片方をでろでろに舐められて、今度は反対側も同じように舐められた。  俺のはすっかり立ち上がっていていたが、ドレスの中にあるので外から見ても分からない。  もどかしくて龍崎の太ももに押し付けて擦ってしまった。それだけでもうイキたくてたまらなくなってしまった。 「ふっ、うっ……あっ……ん、ハァハァ……りゅざき……」 「違うでしょ、倉橋くん。台詞の確認、四十五ページ、シンデレラとのダンスが終わった後の会話だよ」 「へ……う……そ、いま……?」  そうだよと言いながら、龍崎は舌で円を描くようにぐるぐると乳首を舐めてきた。 「あっ……ふぁ……んんっ、すば……らし……だんす……した」  今度は両方の乳首をビシビシと指で弾かれて、突き抜ける快感に足に力が入らなくなってきた。 「レディ。初めまして、よろしければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」 「ごめ……さ……、なまえは……おお……え…できま…せん」 「そうですか、では貴女とも踊りたいのですが……」 「あああっ……、んぁっ…むむ…むりだってっっ」 「こら、台詞が違うよ」 「わ…たくしではなく、ど…どうか、さっきのかたと……もう……いち……、もやぁ……ドレス、汚しちゃう」 「ああ、そういえばこっちは俺の足で擦って遊んでいたね。だいたい確認できたからもういいか。どうかな……、あーすごい、先っぽから凄い溢れてる。ふふふ……そんなに気持ちよかった?」  龍崎はドレスを託し上げて裾を自分で持つように俺の手に掴ませた。  触って欲しくてたまらなかった俺は、裾をぎゅっと掴んで涎を垂らして龍崎の愛撫を待った。  間近で俺を見つめながら嬉しそうに微笑んだ龍崎は、下着を下にずらして期待通りに俺のモノに手を這わせてきた。 「ああっ…、りゅ…ざき」  すぐに快感で満たされるところを想像して、体がぶるりと震えた時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。  瞬時に我に返った俺はビクッと体が揺れて青くなった。ここがどこだったのか、すっかり頭から抜けていた。 「あれ? 会長いない? 失礼しまーす」  龍崎を訪ねてきた生徒が音が聞こえないからと、普通に部屋に入ってきてしまった。  カーテンが引かれているので、こちらは見えないと思うが薄っぺらいカーテン越しに他の生徒がいると思うと緊張で心臓がバクバクと揺れ出した。  どうしよう。  あのカーテンを開けられたら…… 「ん? 会長、着替え中?」 「あー、森沢。そうそう今着替えてる。ごめんね、集中してた」  気配を察知したのか、入ってきた生徒が話しかけてきた。  龍崎は平然として答えながら、なんと自分のベルトを外している。  俺はもちろん声なんて出せないし、目で何をするのかと訴えたら、龍崎は下着の中からボロリと自分のモノを取り出した。  龍崎のソレは俺と同じくギンギンに勃っていて、腹につきそうなくらい反り返っていた。 「あのさー、先生からさっき渡した箱だけ回収するように言われたんだけど」 「ああ、こっちにあるよ」  龍崎の目線が試着室の端に送られた。そこには小さな段ボールが置かれていた。  何を考えているのか、龍崎は俺のと自分のモノを重ねて一緒に擦り始めた。 「………っ!! ぁ……くっ………っっ」  すでに先走りで濡れていたので、ぬちゃぬちゃと卑猥な音が試着室の中に響いてくる。  我慢できなくてわずかに声を漏らしてしまったら、外にいる生徒が聞いてる? と言って近づいてくる気配がした。 「だ…大丈夫? なんか、苦しそうな声する……けど?」 「ん? 気のせいじゃない? ただ着替えているだけだから」  カーテンに人影が映って、相手はすぐ目の前にいるのだと分かった。  どくどくして心臓が壊れそうだ。  もし今開けられたら、全部見られてしまう。  こんな状況なのに龍崎の手は俺を確実に追い詰めてくる。  合わさった陰茎が擦れて気持ちいいし、親指を使ってぐりぐりと亀頭の辺りを押されて痺れる快感に声がもう抑えられない。  高まる射精感にもう我慢の限界で、龍崎の目を見て必死に訴えた。 「会長? 開けていい? 箱だけもらっていくけど……」  カーテンに揺れる人影が伸びて端を掴んだ手が見えた。  ニヤリと笑った龍崎は、限界を迎えた俺のと自分のを合わせて今までで一番激しく上下に擦ってきた。  そんなことをされたらたまらない。  あっという間に熱は膨れ上がって、下半身に集中した。 「あっ、んっぐっ……っ……」  もう我慢できなくて、龍崎の手に包まれたまま俺はイってしまった。わずかに声が漏れたが、龍崎の手が俺の口を塞いだのでそれ以上漏れることはなかった。  射精後の余韻にぶるぶると震えていたら、お腹に熱い飛沫を感じた。  少し遅れて龍崎も達したらしい。 「………いい」 「え?」 「後で俺が持って行くから。調子が悪いんだ、少し一人にして」 「わ……分かった。打ち合わせ、三十分後だって、よろしくー」  あの生徒は気がついたのだろうか。  カーテンが開く音はしなかったが、隙間から中を覗いたのでは……。  しかしトロけた頭ではもう、何も考えられない。  パタパタと走る音がしてドアがパタンと閉まった音が聞こえた。  ぼやけた意識の中で、龍崎が何か囁いてきた気がした。  聞き返したかったけれど、どろんと重くなった意識がそれを許してはくれなかった。  □□□
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