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8、守りたいもの
「ぁぁ……くっ……っうう……んっあああーーーーっ!!」
膨れ上がった熱が弾けて白いものに変わって飛び散った。
ぬちゃぬちゃと俺のアソコをしごいていた男は、その手についた白濁を俺に見せてきた。
指からトロリと垂れたソレは俺の頬にべちゃりと落ちた。
男は嬉しそうに笑って舌を出して、それを舐めとった。
「ははっ……まだ、濃い。倉橋くん、またイッちゃったね。もう何回目かな……」
「んは……ハァハァ……はぁ……ぜんぜん…おさまら…な……」
「ごめんね、俺のフェロモン強いからさ。オメガの子は気が狂っちゃうこともあるって。でもさ大丈夫、ちゃんと薬を飲んできたから、ヒートは起こしてないでしょう」
そう言って笑った男、龍崎は自分のモノと重ねて一緒にまた擦り始めた。
「はぁぁっっ……いいっ……もち…いいよ」
「可愛い…倉橋くん。俺もまたイッちゃうかも。次は一緒にイケるかな」
フェロモンにあてられた俺は足に力が入らなくなりベッドに寝かされた。
俺の上に龍崎が覆い被さるように乗ってきて、自分のモノと俺のモノを擦り始めてから、もう何回イッたか分からない。
発情状態に近いくらい俺の体はアルファを求めてうずきだして、射精しただけでは熱が収まりそうになかった。
欲しい欲しい。
目の前のアルファが欲しい。
頭の中はそれで埋め尽くされて行く。
なのに龍崎は俺の後ろには挿れてくれない。
たっぷりと潤って涎を垂らしているのに、中には挿入ってきてくれないのだ。
「りゅ…ざき、おねが……いれて……、おしりのなか……ほし……ほしいよぉ…」
「……倉橋くん…初めてなのに、おねだり上手だね。はぁ……たまらない。おかしくなりそう……でもだめ、俺に夢中になって……四六時中俺の事しか考えられないくらいにならないと…それまで……だめだよ」
「あああっ……ひどい……欲しいのにぃ……」
「可愛い倉橋くん、今日はこれでいっぱい気持ちよくなろう。ほらこうして先っぽ同士合わせてぐりぐりしたら気持ちいいでしょう?」
「あっ、あっ…、ああっ…ぅぅあっ…すごい…いい……」
「はぁ……やばい……激しくするね」
最後まで満たされない中途半端な快楽。
それでも初めて他人と肌を触れ合わせて、龍崎から与えられるものは、頭がおかしくなりそうなくらい気持ちが良かった。
龍崎もすでに何回か達していた。
二人が出したものが俺の腹に溜まって白い水溜りみたいなものができていた。
龍崎に激しく擦られるとまたすぐに限界を迎えてしまう。
巧みな手つきは俺の感じるところをすぐに見つけ出して、そこばかり執拗に責めてくるのだ。
俺は腰を持ち上げて揺らしながら激しすぎる快感に震えた。
「あ……また、で……でるっ!!」
耐えきれなくなりまた熱を放った。
びゅうびゅうと激しく飛び散った白濁は、二人の顔にまで飛んだ。
龍崎もまた遅れて達して、同じ場所に飛び散った。
「はははっ…すごい……たっぷり出たね」
龍崎が飛び散ったものを手に取って、俺の胸に塗りつけていく。
その上から吸い付いて花びらのような痕を残していった。
俺はそれを見ながら、比奈川にしたみたいに痕を付けるんだなとぼんやりと思った。
嫌な気分はしなかった。
むしろ、比奈川と同じように扱ってもらえたのだと、嬉しい気持ちが湧いてきてしまい、最低だと目を瞑った。
「みーちゃん、大丈夫?」
ソファーに転がってぼんやりと天井を見ていたら、視界いっぱいに可愛い顔が入ってきた。
大きな瞳が心配そうに俺を映していて、俺は笑って大丈夫だよと言った。
「ユウくん、実誠は今文化祭の劇の練習で疲れちゃってるのよ。心配しなくても、寝たらケロッと元気になるから」
キッチンに立っている母が炒め物をしながら声をかけてきた。
学校から遅く帰ってきた俺がソファーでゴロゴロしているので、心配になったのだろう。
お風呂から出て塗り絵で遊んでいた優斗が、手を止めて俺のそばに来てくれた。
「無理しちゃだめだよ。僕……心配だよ」
「優しいな優斗は。大丈夫だよ、母さんが言った通り、寝たら元気になるから」
優斗は感受性の強い子で、人や動物の生き死にが描かれた物語を見たり読んだりすると、しばらくずっと泣いて止まらなくなることがある。
ぐったりした俺を見てその気持ちが出てきてしまったのかもしれない。
大丈夫だと頭を撫でてやると、優斗はソファーで横になる俺の懐にもぐりこんで抱きついてきた。
「あらあら、お兄ちゃんに甘えちゃって……」
母は嬉しそうに笑って俺達を見た後、お風呂の様子を見てくると言ってキッチンから離れた。
「甘えんぼさんだな、来年は年長さんだろう。カッコいいお兄ちゃんヒーローにならないと」
「僕……いつまでもここにいたい」
俺の胸に顔をうずめた優斗は泣き出しそうな声を上げて少し震えていた。
優斗が一歳にもならない頃、事情があって母親は家を出ていったらしい。だから母親の記憶などないだろう、明宏さんはそう言っていた。
だがどんなに小さくても、辛い記憶は心に刻まれるのかもしれない。
両親の離婚、それによって傷つく子供の気持ちは俺が一番よく分かっていた。
「大丈夫だよ。母さんも明宏さんも俺も、みんな優斗のこと大好きだ。大切に大切にするから、ここでいっぱい大きくなっていいんだよ」
「うんっ…僕も……みーちゃん大好き」
心がくすぐったくなって温かくなった。
家族の幸せ、そういうものに憧れていた。だからもう二度と失わないように、大切に育てていきたい。
「こんなに甘えてくるなんて、どうした? ……保育園で喧嘩でもしたのか?」
「だって……臭うから、みーちゃんから変な臭いがする」
「へ……!? あ…汗臭いのかな、ほら、まだお風呂入ってないし」
「みーちゃ…………」
俺の胸に頭を擦り付けながら優斗はこてんと寝てしまった。
今日は外で思い切り遊んだと聞いたからきっと疲れていたのだろう。
ぽんぽんと頭を撫でていたら母が戻ってきた。
「優斗、寝ちゃったのね。ほら、私が運んでおくから、あなたはご飯食べて」
「……うん、ねぇ母さん。もしかして優斗って、アルファの可能性ない?」
先ほど優斗が言った変な臭いという言葉が気になった。確かに今日の俺は、身体中に龍崎のフェロモンが染み付いているだろう。
触れられなかったのは唇と奥だけだった……
残ったアルファのフェロモンに、一番反応するのは同じアルファだ。
オメガやベータが感じ取れないくらいの薄いものでも、本能的に感じ取ってしまう。
「うー…ん、バース性検査はまだ先だしね……。明宏さんのお祖父さんがアルファだったらしいから、可能性はあるかも。でもそうだとしても、しっかり見守っていくから」
「……うん、そう…だね」
母は穏やかに笑っていた。
心配なことはたくさんあるけれど、胸の中で無邪気に眠る優斗の未来が明るいものであって欲しい。
そう願ってぎゅっと抱きしめた。
「はぁ……はぁ……くらくらする」
走れば間に合うかとなだらかな坂を小走りでスタートしたが、途中で力尽きて俺は遅刻を受け入れた。
昨夜は疲れているはずなのに目が冴えてしまい、ベッドに入ったがずっとうとうとして、結局朝方寝入ってしまった。
母に起こされた気がするが完全に二度寝してしまった。
すでにチャイムが鳴り終わった時間で歩いている生徒はいない。
こんな時に車で送迎のヤツらを見ると羨ましいと泣きそうになる。
とぼとぼと校門へ向かう角を曲がった。
校門から少し離れたところに黒光りしていて、いかにも高そうな車が止まっているのが見えた。
どうやら俺と同じく遅刻組だが、あちらはゆったり送ってもらえたようだ。
降りようとしているところで何かもめているのか、わずかに開けられたドアから声が漏れ聞こえてきた。
「……だ……め、……もう、だめだって……んっっ……」
耳に入った甘ったるい声に聞き覚えがあって、ハッとした俺は思わず近くの木の影に隠れてしまった。
そっと覗いてみると、フロントガラスにうっすらと見えているのは、思った通り比奈川だった。
折り重なった人影を見るに、どうも熱いキスを交わしているように見えた。
心臓がぎりぎりと痛んで体が凍えそうになった。
寒いのに汗が出てきて、握り込んだ手は湿っていた。
まさか、朝から二人のラブシーンを見ることになるなんて、ショックで頭が真っ赤に染まった。
胸が、息が苦しくてたまらない。
それと同時に胃の奥から怒りが込み上げてきた。
昨日、俺にあんなことをしておいて、今朝は比奈川と車の中でキスしているなんて、龍崎はなんて男なのだろう。
俺には……俺にはキスなんて…………。
「もうっ…遅刻だよ……。離してってば、早く行かないと……」
そこでふと疑問が湧いた。
運転席に龍崎がいるということは、あいつは運転をしてきたのか? ということだ。
誰かに運転させたのなら、なぜ一緒に学校に入らないのか……。
相手はやけにねちっこくして、比奈川を離さずにいるようだ。
疑問に背中を押されて、ごくりと唾を飲み込んでから、恐る恐る木の陰から顔を出した。
「もー信じらんない! 先生に怒られたら、恭弥のせいだからね!」
完全に頭が混乱した俺は、比奈川は怒る声も可愛いななんてバカなことを思ってしまったが、違う違うと頭を振った。
「いーぜ。俺のせいだって先生に伝えてくれ」
「ばかばか! もー行くから、じゃあね!」
助手席からバッと比奈川が飛び出して、その後を追うように一人の男が出てきた。
一瞬背格好から龍崎と見間違えたが、着ているものは派手な柄シャツで、根本が黒くなっている金色の長い髪を後ろで結んでいた。
ギラギラしたグラサンをかけていて、目元が分からないが、見えている部分から整った顔が想像できる。
だが、どう見ても龍崎ではなかった。
そうだそれに、さっき比奈川は翔吾ではなく、恭弥と呼んでいた。
まさか……比奈川が、あんな柄の悪そうな男と……。
無理矢理脅されているような雰囲気はなかった。
むしろ仲が良すぎて喧嘩するカップルみたいな勢いすら感じた。
比奈川が校門に入るところを見届けた男は、颯爽と車に戻って爆音のエンジンをかけて走って行ってしまった。
俺は足の力をなくして、木の根元に座り込んだ。
今見た光景はなんだったのか。
寝不足過ぎて、朝から訳の分からない夢を見てしまったのか……。
「なんだよこれ……。一体どういうことだよ」
困惑して震える声しか出せなくて、当然ここにはその疑問に答えてくれる人はいなかった。
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