第1話 入寮

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(Side:大堂) あの学園が特殊なのだと思っていた。 思春期で閉鎖的な場所に閉じ込められたための弊害だと。 が、どうやらその考えは甘かったらしい。 流石アメリカと言うべきか。 自由な国アメリカでは確かに同性愛者が日本よりオープンなイメージはあるが。 でも、こうも身近にそういった人間が多くいるのは驚きである。 と、自分を棚に上げて、先程出会った2人の人物を思い浮かべた。 共にこちらに来てよかった。 こいつのタラシ癖というか、人間に好かれるフェロモンというのは、全世界共通なようだ。 もちろん、男女問わず。 道行く人は一様にこの男を目で追ってから思い出したかのように去っていく。 寮監も、彼を一目見た途端態度を一変。 挙句の果てに、同室の男とは随分と古い関係なようだし。 これは皇の力が働いたのか、あるいはただの偶然か。 いずれにせよ、この男の皇に対する発言はただの昔の知り合いに対するものではない。 例えるなら、そう。 “初恋の人” [ダイドーはイオリのなに?] トイレに行く、と皇が席を外したちょうどそのタイミングで男が真っ直ぐ俺に話しかけてきた。 しかも、解読の難しい訛り英語で。 先程、日本語を勉強したいから、寮部屋では日本語を使おうとか宣言してなかったか? [さっき紹介されただろ] [そ?じゃぁ、私が彼を国に連れて行ったら、君のマズイのかな?] 国に連れて行く、つまり、パートナーになる、ということか。 [日本ではまだ同性婚が許されていないそうじゃないか。でも、私の国なら既に同姓同士の結婚は法律で認められている] [そこに(アイツ)の気持ちは関係しないのか] [もちろん、イオリの意思を尊重するさ。けど] 「なんだ?何か話してた?」 皇が戻ってきたことで、その話は中断した。 「ん?がんばろうって」 “けど”に続く男の言葉を直接聞く機会は、その後おとずれなかった。
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