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「アル。俺は男で、男は恋愛対象じゃない」
驚きで覚醒した頭で必死に拒絶の言葉を並べる。
「イオリ、それは、わたしとはカンケイあるの?」
「……。」
[私を恋愛対象に入れてほしいって言っているんだよ?]
最初は日本語で話していたアルだったが、それが煩わしくなったのか、喋り慣れた訛りの強い英語で言われたため、短い文章ではあったが、処理するまでに時間がかかった。
[男とか関係あるの?私の国は同性婚だって認められてるよ?同性同士の恋愛だって、別に変じゃない]
[変だと言っているんじゃない。同性愛に理解がないわけじゃないし、不快さだってない。俺個人の……、「性的指向」の話をしているんだ]
こんなことを話すために英語を学んだわけではないため、単語が出てこなかった。
案の定、アルも理解できていないようでキョトンとしている。
[理解もあるし、不快さだってないならよくない?]
ほら、やっぱりわかっていない。
これは、何と説明すればいいのだろう。
ここで異文化交流の難しさに直面するとも思っていなかった。
ましてや、相手は……
[イオリ!そうだ、結婚しよう!]
「お前は、また……。目を離すとすぐこうだな」
俺の思考とアルの言葉と大堂の声が重なった。
え、待て。
色々ありすぎて訳がわからない。
まず、だ。
ため息を吐いた大堂がドアの前で仁王立ちしている。
日本語で俺に向けて放たれた大堂の言葉は相変わらず聞き捨てならない。
俺は悪くないだろ、どう考えたって。
そして、なぜ俺は突然プロポーズされたのだろう。
あれ、なんの話してたんだっけ、と、あまりにも飛躍したそのアルの言葉に、先ほどまでの話の内容を忘れたくらいだ。
[私の国は同性婚が認められてるから。結婚してパートナーになれば、男としてではなくて私自身を見てくれるだろう?]
いやだから、そういう……。
そもそも、だ。
[お前の国で同性婚が認められているのはわかった。けど、王子であるお前の同性婚を国は許さないだろう]
そう、彼はこれでいてある国の国王の子。
つまり、本物の王子様なのである。
その事実には、流石の大堂も目を見開いていた。
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