第1話 入寮

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「なぜ…」 一国の王子がこんなところで大学生などをやっているのか、とか。 皇家と関わりがあるのか、とか。 大堂の驚きも、呟いたその言葉の続きもわからなくはない。 わからなくはないが、今それを聞く必要は果たしてあるか? そんなことより、この状況をなんとかしてほしいものだ。 大堂にしては珍しい反応の鈍さに、彼自身も時差ボケを含む疲れが溜まっているのだろうと結論付ける。 よし、と腹筋に力を込めて覆い被さるアルを押しやれば、思ったよりも容易く退かすことができた。 [何さ、ダイドー。邪魔しない約束だろ?] あれ、と思ったのも束の間、大堂に首根っこを掴まれベッドから引き摺り下ろされたアルがそんなことを言った。 [そんな約束した覚えはないが] いつの間にそんな会話をしていたのだ。 あ、あの時か。 あの少しトイレのために席を外したあの時。 [君にはちゃんと聞いてあっただろう。イオリを国に連れて行っても問題ないかって] [それに対して返事をした覚えはないが] [イオリの気持ちは関係ないのかって、イオリの意志があれば良いってことだろう?] はぁ、と大堂が片手で頭を抱えて深い溜息を吐いた。 「何をどう解釈すればそこまで話が飛ぶんだ……」 日本語で呟かれたその言葉をアルは理解していないようだった。 が、俺は大堂に激しく同意である。 先程のプロポーズ紛いの言葉もそうだ。 なぜそんな話になったのか、アルの頭の中は皆目見当もつかない。 そんな中、寝起きで働いていなかった胃がグルッと空腹を主張した。 もうそんな時間か、と時計を見れば、既に夕飯時を迎えていた。 昼食すら食べていない。 そりゃ、腹も訴えるわな。 [そうだ、イオリを夕飯に誘いに来たんだ]「イオリ。チカクにレストランがあるんだ。イッショにどう?」 思い出したかのように英語で呟いた後、日本語でそう誘われた。 お腹も空いているし、断る理由はない。 が。 「大堂、メシは?」 「一緒に行かないわけないだろ。お前を1人にするとロクなことがない」 だから、なんで俺なわけ。 とは思いながらも、アルと2人きりではないことにホッとすると同時に、大堂の気遣いをきちんと受け取った。 もちろん、アルからは[なんで!]と抗議の声が届いたが、聞かなかったことにした。
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