第1話 入寮

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疑いをかけられてニヤニヤとした笑みを向けられても、何食わぬ顔で無表情を貫き通す男。 いや、否定くらいしよう? この人本当に見境ないから。 「クス、ーーーーーー」 絡まっていた俺の腕から離れ、大堂の肩に手を置き唇を耳に近づけてコソッと何かを呟いたが、流石にそれを聞き取れるほど良い耳はしていない。 「えぇ、まぁ」 なんだ、その肯定は。 「……!フフ、ハハハハハ!」 大堂の返事がお気に召したのか、突然腹を抱えて笑い始める叔母からは、普段のその姿から溢れ出ている気品やら上品さがゴッソリと抜け落ちていた。 それこそ、本当に喋らなきゃ絶世の美女なんだけどな。 この年になっても衰えることがないとか、父や叔父もそうだが、恐るべし皇の血。 そんな彼女の欠陥部分は相当な損失だが、まぁ、普段は隠しているだろうから、たまには仕方ない。 そこは親戚のよしみだ。 「このまま寮へ直行よね?残念だわぁ〜〜、色々聞きたかったのに」 その、に良いニュアンスは全くもって含まれていないため、直接入寮で良かったとは思うが、そのためだけにこうして迎えに来てもらったのも些か申し訳なさがある。 「良いのよ〜〜〜!初めての土地だもの、不安ばっかりでしょ。せっかく親戚がいるの。いつでも頼っていいのよ」 なんだかんだ良い人なのである。 「それじゃあ、また今度ご飯でも食べましょうね」 寮まで送ってもらった別れ際。 茜さんも車を降りて見送りをしてくれた。 丁寧に頭を下げれば、「あ、そうだ」と何かを思い出したかのようにスマホを鞄の中から探り出した。 「ハイ、ワン、ツー、スリー!」 理解が追いつかない俺と大堂の間に入り、両腕を2人の腕に絡ませてグイッと引っ張ると、パシャッと一枚。 インカメラで3人を写真におさめた。 「柊二に自慢しないと!!あ、庵くんとのツーショットもいいかしら!?」 この人は、全く……。 「ふふ、兄さんにも送っとくわね。無事つきました〜って」 こういう優しさや愛に溢れている所があるからまた、この人の親戚でよかったと、思えるのだろう。
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