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同室はどんな奴なのだろう、とか。
部屋はどんな感じなのだろう、とか。
食堂はあるのかな、とか。
学園に似てホテルみたいで綺麗だな、とか。
話題は山ほどあるが、俺たちの間でそんな会話がなされるわけもなく。
無言のまま部屋の前に着いた。
例のごとく大堂が先に立ち鍵を開ければ、ガチャっという音とともにドアが開いた。
それと同時に実感する共同生活。
いくら学友とはいえ、これから他人と共に暮らすのかと思うと不安になる。
同室の2人のうち1人が大堂でよかったと、彼の背中を見ながら思った。
ドアにチェーンは付いているもののかけられていない。
もう1人の同室となる人はチェーンの使い方を知らなかったのか、はたまた、我々が来ることを知っていて開けといてくれたのか。
いずれにせよ、俺らからすればチェーンを掛けないことは不用心でしかない。
これも、文化の違いか、と同室がどんな奴なのか、更に気になった。
何の躊躇もなく室内へと入り、リビングへと繋がっているのだろうドアを開いて、はたと気づく。
あ、外出していていない可能性もあるのか。
そうだとすれば、チェーンがかかっていなかったのも納得である。
3人が共同生活をするには十分の広さのリビングにダイニングキッチン。
そこには誰の姿もない。
更に奥には、鍵付きのドアが3つ並んでいる。
そこが恐らく個人の部屋となるのだろう。
どこかが既に入寮を済ませている誰かの部屋。
残り2つが俺らの部屋。
さて、どれが当たりだ?
と、一番左の部屋をノックしようと手を握った時だった。
[君たちが同室というやつかい?そこは空室だよ。私はここを使っている。名はアルフォンス・ラウ・サファテ。よろしく]
かけられた言葉は聞きなれない訛りの英語。
何とか聞き取ったその名前に、無意識のうちにポロッと言葉が落ちていた。
「え、まさか、アル?」
「………、イオリ?」
確かに男はそう言った。
身長も体格も、声の高さも顔つきも、全く違うけど。
でも、その瞳の色と髪の色、何より彼が告げたその名が全てを肯定していた。
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