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ある日の会話
「あのね、人の歌にとやかく言うつもりはないけど、あなたのは詩歌っていうよりラップに近いわよね」
鳳凰院詩華はそういうといつも持ち歩いている扇子を広げて顔を扇ぐ仕草をした。
言われた五月女戦士は相手が三年であるとか詩歌トーナメント戦の連覇者であるとか肩にかかったストレートの黒髪が揺れて綺麗とか気圧される様な美貌だとかの諸々のプレッシャーに打ち勝って反論できたのはひとえに大好きなラップをバカにされた様な気がしたからだった。
「ら、ラップに近かったらだめなんですか?」
「だめ……とは言わないけど、ラップなんてただ韻を踏んで相手を貶す行為でしょ?しかも貶さないと成立しないものが芸術とは到底思えないんだけど」
そう言って詩華は扇ぐ動作をやめ少し顔を隠す様にすると物憂げな視線を向けた。
「いえ、貶すだけじゃないですよ、リスペクトするラップだってありますからね、からしれんこんさんとか」
戦士の額にはうっすら汗が滲んでいた。
「からし、れんこん?あんまり聞いたことないけども」
「それに、た、ただの貶し合いじゃないですよ」
「じゃあ何?」
「た、魂のぶつかり合いです」
「……たましい?」
「そうです、魂です」
「ふーん、本当にそうなら審査員に響く筈よね?」
「も、も、もちろん!」
「じゃあ待ってるわ」
「はい!……へ?どこで?」
ま、まさか?どういう理由かはわからないが何処かで待ち合わせる事になったと考えた五月女戦士は紅潮した顔を上げて目を見開いた。
「うたいくさ」
「うた……いくさ?」
「全校詩歌トーナメント戦よ、出るんでしょ?」
「あ、、、も、もちろん」
「そこで今の話の決着をつけましょう」
そういうと、詩華は持っていた扇子をピシャリと閉じた。
「は、はい!……いや、望むところですよ!」
その返事を聞くか聞かないかの間に鳳凰院詩華はくるりと踵を返すと部屋から出ていった。
しかし、その刹那にほんの少し彼女が微笑んだ様な気がしたのは五月女戦士の見間違いだったのかどうかわかるのはかなり後の話である。
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