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 背もたれ越しのベンチの客は、背中越しにそっと、封筒を差し出した。  始終無言なのは、警戒しているのか、現実味のないやり取りに、緊張しているのか。  どちらでもいいと、男も無言で背を向けたまま、封筒を受け取った。  顔も、見ない方がいいだろう。  ドジを踏む気はないが、もしものことがある。  何せ、この地でのこの手の仕事は、商売敵がいるか否か、その商売敵が誰かで勝敗が大幅に変わってしまう。  万が一捕まって、依頼者の名や顔を吐いてしまったら、経験値はがた落ちだ。  客が無言で立ち去るのを気配で察すると、男は請求書を読む手軽さで封筒を開けて、中を確認した。  疲れた一万札が数枚と、一枚の写真。  金銭には目もくれずに、写真を凝視した。  どこで手に入れたのか、集合写真だった。  目当ての人物に、赤丸が入れてある。  男は穴があく程に、その顔を凝視していた。  どう見ても、相応にしか見えないと、溜息を吐く。  その集合写真に写る者は、真ん中のスーツ姿の教師を含む三人以外、学生服を身に付けて、真面目な顔を作って写っている。  この学校は、この地では有名なマンモス校で、詰襟の制服は中等部のものだ。 「しまったな……」  男は、これから会う度に後ろめたい気持ちになるであろう人物を思い浮かべ、空を仰いだ。  だが、受けてしまったからには、引き返せない。  それが例え、十代の子供を手にかけると言う依頼であっても。
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