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 静を助け出した後、親族たちは国へと追い返した。  それをしたのは、セイではない。 「え、誰ですか? まさか、カガミさん? よく我慢しましたねえ」 「いえ違います。あの方にはまだ、事情の説明はしておりません。手伝って下さった方々も、きっと口を噤んで下さっていると思います」  静の救助を手伝ってくれたのは、石川(いしかわ)一樹(かずき)だと言う。 「石川さんっ」  健一は驚いて、声を上げてしまった。  (つつみ)家の一人娘と恋仲になり、二人の子を儲けた石川一樹。  年子の兄弟の内、長女を引き取って、後を継がせる予定だと聞いた。  下の長男の事も気にかけていて、偶に古谷家に顔を出すと言う。 「瑪瑙(めのう)さんにお知らせしようと、慌てて家に戻りましたら、丁度おいでで。つい取り乱してしまいまして……あちらの(ほまれ)様も、助けて下さいました」 「……」  豪華な面々が、集っていたようだ。  誉とは、石川家に代々仕える妖しだ。  何の妖怪なのかは分からないが、威圧がすごく、何よりも鏡の昔馴染みだと言う所から、ただの使役された妖しではない。  その気配が、先程なかったところを見ると、全て終えてセイへとバトンを渡した後、だったのだろう。 「もう大丈夫と言う、保証はありませんので、今夜は古谷家にいてもらおうと、思っております」 「なるほど。その方がいいですね」  頷きながらも健一は、少し戸惑っていた。  静の、珍しいほどにしおらしい様子に。  出かけて来ると言う志門を、追いすがりそうな顔で見上げ、何か言いかけてから頷いた、年相応の幼い表情が、昨日までとは違う、二人の関係性を、思わせていた。  健一にとって、静は妹のような存在だ。  その少女が、昔の事を忘れるくらいに幸せになれれば、それに越したことはないが、相手がこの人で、大丈夫かな。  心の中で失礼な事を考えながら、志門と連れ立って病院へと向かい、叔父に話を通して病室へと入れてもらった。  研修医の立場で、偉い立場ではないと言う玲司だが、社長の弟と言う権限は充分に、多少の融通を利かせてくれる。 「というより、私に頼まずとも、お前こそ社長の息子なのだから、その権限を使ったらどうだ?」 「嫌だよ。オレ別に、親父の仕事に興味ないから」  そんな会話をしながら病室に入ると、身を起こした少年が振り返り、目を丸くした。  ギブスをつけた右腕が、痛々しい。 「よ、調子はどうだ?」 「あ、ああ。手が使えなくて、難儀してる」  答えた少年は、戸惑いながら健一の後ろの少年を見た。 「そちらは、確か……」  見返す志門も、速瀬伸の顔をまじまじと見つめ、戸惑っている。 「ああ、古谷先輩だ、高等部の」 「やはり。確か、僕と同じ転入生で、優秀な成績で試験をクリアした人だと、聞いていました」 「いえ、そこまで優秀でもありません。あなたこそ、全問正解で合格したとか」  我に返ってそう答え、志門は微笑んだ。 「初めまして、古谷志門です」 「速瀬、伸です」  名乗り合って互いに頭を下げ、顔を上げると、まず志門が気になった事を訊いた。 「あの、不躾な事を訊いてしまうのですが、よろしいですか?」 「何でしょうか?」 「もしや、元々は、別な姓を、名乗っておられたのですか?」  また、伸の目が丸くなった。 「不躾とおっしゃるから、別な事だと……ええ、前は、別な姓で、母と暮らしていました。母と……再婚相手の男性と」 「そうでしたか。苗字を名乗るのに、慣れるのは大変ですから。私も苦労いたしました」  伸が驚いて健一を見るが、同級生の少年が僅かに顔を顰めた。
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