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 警察は、近くの監視カメラの映像を解析し、分かった。 「……どうやら、何も映っていなかったようだ」  この事を教えてくれたのは、志門の担任の古典の教師、望月先生だ。  なぜ、そんな話に答えられるのかと言うと、通り魔の件では当事者の一人で、知る権利を行使したからだ、という。 「角度が悪かったのか、敢てその位置で取引したのか。もしそうなら、相当頭が回る者が係わっていると見える」 「……」  考え込む志門に、望月は問いかけた。 「速瀬の様子は、どうだった?」 「動けなくて、難儀しているとのことでしたが、そこまでひどい状態でもない様です」 「そうか……」  女教師は溜息を吐いた。 「まさか、腕を折った状態で登校しているとは。それに、通り魔の件も、あの生徒を狙っていたとは」 「あの、どうしてそれを、ご存じだったのですか?」  昨日の今日で、既に学校の方へも知られた事だとは、思っていなかった。  そう言った志門に、望月は簡単な謎解きをした。 「雅に、聞いた」 「……」  口止めるのを、忘れた。  同時に、もう一つの口止めも忘れたと、少年は青褪めた。 「ああ、初等部の岩切の件は、きちんと口止めされた。心配するな」 「ほ、本当ですか?」  つい訊き返した生徒に、望月は頷いた。 「雅が速瀬の事を話してくれたのは、私が気にしていたのを知っているからだ。いつもは、口が軽い女ではない」 「?」 「まあ、私が気にしているのは、仕事の一環でだが。あの生徒はな、秀才ではあるが、昔いた地元では、相当の悪だったようなのだ」  意外な話だった。 「悪、とは、不良のお友達がいたとか、そう言う事ですか?」 「いや……」  母親が体を崩し、働けなくなった時、金策に走っていたのだと言う。  志門は、首を傾げた。 「それは、良い子だったのでは?」  有名な悪、という話は何処から来たのか。  望月は天井を仰ぎ、それから声を潜めた。 「速瀬の母親の再婚相手は、刑事なのだが……その出会いがな、どうも子供の補導、だったらしいのだ」  しかも、調べた限りでは、とんでもない補導のされ方だった。 「とんでもないとは、どういう類の、とんでもないなのですか?」  つい身を乗り出す志門に、望月は更に声を潜めた。 「……刑事の懐から、間違って警察手帳を、掏り取ったらしい」 「……誰が、ですか?」 「だから、速瀬伸が、だ」  しかも、本当は財布を掏ろうとして、間違えたらしい。  金目的の犯行だが、財布の中身ではない。  怪しい仕事をしている男の財布から、脅しに使えそうなものを物色するために、掏り取っていたのだと、伸は自供したと言う。 「そ、それは、いつの話なんですか?」  速瀬伸は、今年中学に上がったばかりだ。  昔と言う事は、十代ですらないかもしれない。  そう思っての問いに、望月は重々しく答えた。 「小学校に上がる前、だ」  珍しく、志門は口を開け放った。 「その手帳を掏り取られた刑事が、母親の結婚相手、なのだが。その刑事は、そんな危ない事をしていた子供を持つ女を、連れ合いにするために、随分手を尽くしたらしい。結局、実の父親に、子は取られてしまったが」 「その、母上のお相手の方には、懐いていたのでしょうか?」 「そこまでは分からない。だが、突如現れた父親に、ついて行くと決めたのは、速瀬本人だったようだな」  速瀬良には妻子がいたと言う事は、不倫の末の子供のはずなのに、どうして引き取ることにしたのか?  どこかにいるはずの妻子は、この事を知っているのだろうか?  その疑問にも、望月は首を振った。 「どういう心算で、この事態になったのかは、分からない。だが、調べた限りで、生徒本人への恨みで狙われるとしたら、その掏りを働いていた時期の、掏られた連中絡みだろうな」 「あり得るでしょうか? 当時と比べて、速瀬君もかなり成長しているはずです。顔つきも苗字も変わっているのなら、顔を知られていたにせよ、相手には分からないのでは?」 「だが、可能性があるのなら、調べるべき話だろう? 母親の方にも、今回の事は伝わっているはずだから、そのお相手もその可能性に思い当たって、調べ始めている頃だ」  それが、解決のカギになるかは、また別問題だがなと、望月は苦笑した。  そんな話をしたのは、昼休みの昼食の後だ。  昼からの授業を終え下校しながら、志門は考えていた。  昨日、病室に入った時、気になった事があった。  見間違いかもしれないと、何度も思いつつももしや、と言う思いが消えてくれない、そんな事案だ。  だから、今日は、一人で見舞いに行ってみよう。  少年は、そう思い立ったのだった。  
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