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「安藤さんとHしたでしょ」  次の土曜日。  夕方に晩ご飯の食材を買った後雅貴の部屋に行くと、いつもの如く雅貴は部屋でごろごろしていた。  テーブルにスーパーの袋を置き、ソファで膝に茶々を乗せたままのんびり雑誌を読む雅貴に向き直って、あたしは開口一番に聞いていた。とりあえず、はぐらかされない雰囲気の時に聞くしかないと思った。  案の定、雅貴は寝耳に水、といった体だ。おそるおそるこっちを振り返った。その反応で十分だった。 「…それ、誰から?」  隠すつもりはないらしい。あたしは足元から崩れ落ちそうになりながら、でも泣くまいと自分を叱咤しながら答える。 「女の勘」 「…。…ああ、そう」  ゆっくりと雑誌を閉じて、茶々を床に下ろした。 「何回Hした?」 「…んー。10回くらい? 数えたことねぇ」  こっ…コ~イ~ツ~は~~~~!!!  なんでそんなにいけしゃあしゃあと答えられる!? 思わず袋の中からサランラップの箱を取り出して投げつけそうになってしまった。しかも二ケタ。二ケタ。信じられない。ああもう、絶対別れてやる!!  と、脳が沸騰して今にも爆発しそうになっていると、また間延びした声で付け足しが返ってきた。 「でも半年も前の話だぞ」 「………。だから?」 「だからって。だから別に、日和と出会ってからはしてないってこと」 「…………」 「10回あの女としたことが、そんなにショック?」  いつの間にかすぐそばに寄ってきていた雅貴が、あたしを見下ろしてくる。心なしか、余裕の顔で。 「…べつに」 「正直に答えたら、俺も正直に答える」  ぐっと詰まった。 「…………………すっごい、…ショック」  何がそんなに抵抗させるのか、あたしは物凄くぼそぼそと答えた。だが、ちゃんと雅貴には聞こえたらしく、満足気ににっこり笑ってあたしを抱き締めてきた。 「安藤とは10回で飽きた。だから半年前でプッツリだよ。だけどな、日和とはそういうわけにはいかない。10回じゃ無理」 「――――」 「10000回くらいって言ったら、日和でも俺の中でその差がどのくらいか想像つく?」  そう言って、ギュッとあたしの背中を抱き締める。髪に口を埋められた。 「…あたし、そんなにいい女?」  雅貴と並んで、ひけをとらないあの人よりも。 「それはどうだろう」 「えぇ!?」  さらりと受け流されて、あたしは雅貴の胸に埋めかけた顔を上げた。にやにやと意地悪げに歪む口元と、いたずらっぽい光をともした瞳が目に飛び込んでくる。 「ちょ……雅貴ぃ?」 「とりあえず俺の潔白は事実だから」 「いや、そりゃ、そーかも…しんないけど…」  するりと体を離して、またソファの方へと行ってしまう雅貴。  <まぁでも………いっか>  めったに聞けない、雅貴流の変な告白も聞けたことだし。  10000回かぁ…。と口に出して呟くと、茶々を抱き上げた雅貴にまで聞こえていたらしい。 「あ? なに想像してんだよ。なんならこれから記念すべき1カウント目やっとく?」 「…………」  とりあえず耳障りなひやかしは聞き流すとして。  本当に10000回もあたしとやってたら、雅貴はこの先一生あたし以外の女とはできないんじゃないだろうか?  …ま、本当に10000回したとしても、離してやらないけど。
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