4 唇から愛

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 さっき、日和の言葉も聞かずに迫ってしまったのは、別にたまっていたから、とかじゃない。  純粋に、日和の可愛らしさにヤラれただけ。  あの女は自分がどれだけ俺を惑わせているか気づいていない。  気づいてないから、もう冬だってのに背中のあいたニットやらミニスカートやら、胸元のカゲが見えるVネックやら着てこれる。  やたらと濡れたような唇も。俺はどうやらあの形に弱いらしい。  <…ちょっと、ビビらせすぎたか?>  あまりな思われように、ついトゲのある事を言ってしまった。  ポットでコーヒーを入れ、静かに寝室に戻ると、日和は案の定さっきと同じポーズで呆然としていた。その顔には、だがまだ半信半疑のような色もある。  俺はドアにもたれかかって、ため息をひとつ。  こいつは…本当にわかってないのか? 「…俺があげたプレゼント使ってる?」  こないだの日和の誕生日に、香水をあげた。  どうやら誕生日をアピールしたかっただけらしいが、まさか本当に、日和が欲しがっていた香水をプレゼントするとも思ってなかったのだろう。なんせその香水は、雑誌に載っているだけの、日本未発売の、香水のくせに1万もするシロモノだったのだから。  だが物欲をあまり表にださない日和にしては、珍しく“欲しい”といった。“いいな”、ではなく。  だから自分の持てる限りの人脈を使って、それを手に入れた。まぁ、伊達に顔が広いわけじゃない。 「…使ってるよ」  ぽつりと答えが返ってきた。  もちろん、今日もつけていたことは、さっき日和を抱きしめた時点で気付いていたことだが。 「飲む?」  カップを差し出すと、日和は無言で受け取った。 「…いいよ。1週間でも2週間でも。日和の好きなとこ連れてってやるよ」  つい、甘やかす言葉が口をついて出る。  ハッとしたように、日和がこちらを向いた。  <プレゼントもあげて。誕生日には料理も作って。日和の妙なワガママも、文句言わずきいて。フツー体だけが目当てなら、ここまでしないと思うんだけど>  むしろ数ヶ月前までの自分なら、とっくに見放しているところだ。  もっとも、昔と今で自分が違うのは、日和と出会っているかいないかが理由だが。 「…………」  日和も、どうやら同じことを考えているらしい。  どんどん顔が、気まずそうに俺から逸らされていく。そんなこいつに俺は言いたい。  ―――どこがセックス人形だ?  俺がトドメとばかりに日和のそばに座り、肩を抱くと、 「…ごめんなさい」  と、か細い声が返ってきた。  <あ。…だめだ>  普段は本気でかわいくないとさえ思うほど意地っ張りのくせに、謝る時のこの素直さ。  こういう日和を見ると、自分はどんなワガママでもきいてしまうんだろうなぁと思う。  大きい仕事を任されるようになって、女どころじゃなくなっても、日和のためなら唯一時間を作ろうという気になる。  まぁ、5つも年下の小娘に、そんなこと口が裂けても言ってやらないが。 「…でもね。あたしは…雅貴が一緒なら、その…どこでもいいから」  この女はどこまで悪魔なんだ。  <そういうことは、H禁止中に言うことじゃねーだろが>  まぁ、いい。  そっちがそう出るなら、こっちは愛でも語ってみようか。  日和が陥落して、俺の腕の中に戻ってくるまで。
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