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#4 SIDE : Hina
28. Dec. ――a.m.10 : 29.
本当の強さとただの強がりの違いなんて、あたしにはわからない。
10個近くあるスーパーのレジは、午前中から景気良く混雑している。
最近は百貨店とかの地下に並ぶ、高級おせち料理を買う家庭が多いってテレビで言っていたから、スーパーマーケットなんかの惣菜コーナーにあるおせちは売れ残るんじゃないかと思っていたけど、そうでもないみたいだ。
ぼんやりと列の最後尾に立っていると、腕にカゴがぶつかってきた。
驚いて我に返ると、パーマのあてすぎで痛んだ髪がすぐ目の前に飛び込んでくる。おばさんに横入りされたのだった。一瞬そのおばさんに抗議しようとしたけど、すぐにその気持ちは萎える。おばさんはあたしの心境など無視もいいところで、他のレジに並ぶ列を見渡し、回転の早いレジを観察している。
<……もう、慣れたけどさ>
客の出入りの多いスーパーだと、あたしみたいな若いひょろひょろの女子高生はナメられる。こんな場所でも年功序列よ、とでも言いたげに、さも当然の如く列を抜かしていったりする。そこで強く出れないあたしも、あたしなんだけど。
スーパーの出入り口を遠目に見て、そのすぐそばの壁にかけられた時計に気付いた。
白くて見やすい文字盤の時計は、10時32分を表示している。その手前に『28・29・30限定30%割引セール』と大きく書かれたプラカードが立っていた。平日の夕方にだって割引セールはよくあるのに、特別大安売りに思えるのは単なる年末というせいだ。わかってて「お得だ」とか思ってしまうあたり、年末という時期がもたらすものの異常さをしみじみと実感する。
<向こうも、こんな風に混雑してるのかな>
横入りしてきたおばさんが2つ向こうのレジに走って行った直後、レジがとんとんと進み、すぐにあたしの番となる。ほとんど機械的に金額を読み上げ、バーコードを専用の機械でスキャンする店員のエプロンを見ながら、そんなことを考える。
今日ニューヨーク入りすると、昨日受信したメールに書いてあった。
クリスマスと年末カウントダウンのど真ん中ということもあってか、街はどこもかしこもお祭りムード。住谷先生は地下鉄でいきなり酒瓶片手の若者に肩を組まれて大変な目に遭ったという。背が低くて猫背だってだけで、初老のおじさんも子供扱いだ、と書いてあった。
そんな他愛もない話が3つほど続いた後。
口を緩ませながら文字を追っていたあたしは、次に続いた文章を見て不意に泣きそうになった。
―――『ひなに見せてあげたいものがたくさんあるよ。』
画面の文字から、晃平の温もりを一瞬、感じた気がした。
メールだと途端に無口になってしまう自分を、少しだけよかったと思った。持て余す感情をため息で散らして、また短い返信文を打って送った。
楽しそう。帰ってきたらいっぱい話聞かせてね。待ってます。
まさかこれだけを送るのに一時間もかかってるなんて、晃平はきっと夢にも思わないかもしれない。
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