[番外編]Fortune Cookie

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   #5.  SIDE : Hiyori    28. Dec. ――a.m.11 : 56.  素直に寂しかったのだと言えていたら、こんなことにはならなかっただろうか?  メールがなかったり電話にでなかったりなんて、平常では当たり前のことだった。  雅貴曰く、平日は深夜零時帰宅がほぼで、10時に帰ってこれればいい方。取引先の営業日や企画の内容によって、休日出勤があることもしばしば。しかも、振り替え休日は何年か後に取れるか取れないかといった状況。  大学の友達は、同じバイト先の先輩やサークルの仲間と、同じ価値観生活リズムの男の人と付き合って、同棲しているカップルもいる。飲み会の帰りには、必ず彼女を迎えに来る彼氏だっている。  あたしにはそれが出来ない。出来ない人と付き合っている。  ―――有給? なんだよそれ。  冗談めかしく言って鼻で笑い飛ばした雅貴の横顔を思い出す。  実際彼がどれだけ今の仕事のことを好きで、嫌いかなんて、説明されたところでまだ学生で女のあたしには理解できないけど、でも仕事に追われていない雅貴は、雅貴らしくないと思う。  休みの日にあれだけネジが緩んでるのも、平日の仕事の数々に全力で取り組んでいるからだ。仕事に求められるのではなくて、自分が求めて仕事をしている。雅貴は、不器用なところは不器用だけど、仕事に関しては恐ろしく器用な男だと思う。そんな男が進んで疲れ果てるほど仕事をするということは、つまりそういうことなんだろうと。  だから今まで、あたしは我慢してこれた。  だけどその事実に不満がなかったなんて、口が裂けても言えない。あたしはそんないい子じゃない。  <……もういや>  返事を返さないのは、仕事が忙しかったからじゃないのか?  <―――誰よ、あの子>  色が白くて細身の、お人形みたいな女の子だった。  いつの間にあんな子と知り合う機会があったのだろう。高校生にしては大人びていて、大学生にしては幼かった。お遣いにしては本格的な買い物の量で、スーパーに通いなれている風でもあった。  なにより、こちらが一瞬引けを感じてしまうほど綺麗な子だった。  <……もう、絶対知らないあんなやつ>  なんの弁解もなかった。違うんだ、なんて否定するつもりもないようだった。  雅貴にとってあたしは、別にいなくなっても構わない存在だったのだ。
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