[番外編]Fortune Cookie

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 玄関に入ると、ドアに鍵を掛けるのももどかしくひなの背中を抱き締める。  予想はしていただろうに、俺の腕にすっぽりと包まれたひなの上半身が固まるのがわかった。 「…待って、お風呂入ってから―――」 「後でいいよ」 「で、でも晃平、長旅で疲れてるでしょ? すぐにお湯張るから」 「全然。それよりも早くひなを抱きたい」  もぞもぞと身じろぎをするひなを嗜めるように腕に力を込めてみるが、口が一向に減らない。 「や、だって晃平、」 「だって何? 抱かせてくれないの?」  耳元で、ベッドでしか使わない低い声色で囁くと、ひなの腰がカクンとくだけた。 「~~~~」  口元を押さえて声にならない声で唸るひなを抱きかかえ、トランクをポーチに置いたままベッドへ向かう。俺の胸に顔を埋めてなにやらぶつぶつとぼやいていたひなも、ベッドに寝かされるとぴたりと無言になった。 「……なんで抵抗なんてしたの?」  なんとなく訊いてみると、ひなは俺から気まずそうに目を逸らしてごくごく小さな声で答えた。  …久しぶりだから。  暗闇を微かに振るわせる囁きに、確実に俺の血温が3度ほど上昇した。  昂ぶっていく気持ちをなんとか押し留めて、穏やかさを装って囁く。 「―――土産話は明日するから、今日はとりあえず一週間分ひなを抱かせて」  首筋にキスをしようと顔を近づけると、すぐに甘い香りが鼻先をくすぐる。レストランで嗅いだ時よりわずかに匂いが変化している。もっとミステリアスで、捕らえた男をもっと奥へと誘い込むような。  ひなにはまだ少しだけ早いかもしれないと思いながら買ったのに、俺の下から熱を孕んで切なげに見上げてくる瞳に、一瞬本当に迷い込んでしまったかと思った。どこが「まだ少しだけ早い」?  焦りさえ感じているのに、ひなは自分が放っている色気とはアンバランスとも思えるほどぎこちない様子で頷いてみせた。コクリと従順に頷いた姿に、押さえていた欲望が急速に膨張していく。  とにかく、ひなが欲しい。格好悪くてもひたすら欲しい。  それだけだ。 「…あたしも、抱きたい」  ついさっきまで恥ずかしがって抵抗していたのと同じ口から出てきた言葉に、俺はとうとう絶句した。
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