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#11. SIDE : Masaki
31. Dec. ――p.m.18 : 11.
生まれて初めて、味わった感覚だった。
平日には唸りたくなるほど人が混雑する駅前は、今日に限って無人だ。
天宮さんが車を停めていたであろうスーパーの広い駐車場に、今は2、3台しか停まっていない。そのせいで余計にうら寂しい印象を受けた。普段は常駐しているはずの警備員も今日はいない。
スターバックスを出た直後、携帯に電話が掛かってきた。知り合いからではない。こんな日に見知らぬ番号から掛かってくるくらいだ、間違い電話だろうと思って一旦は放っておいたのだが、二度三度と掛かってくるので出てみると、宅配便の業者からだった。荷物をこれから届けに上がりたいが在宅かどうかと。一瞬、六時からの約束が頭を過った。が、結局「三十分後には家に着いてます」と言って電話を切った。
改札までの階段を見上げたのち、来た道を戻るべく歩き出す。ロータリーに待機しているタクシーも今日は少ない。用もなく外を出歩いている人間は、もしかしたら俺一人だけなのかもしれない。
「―――もしもし堀井? 俺だけど。悪い、今日ちょっと無理」
渋谷の待ち合わせの店に既に着いているはずの同期の堀井に電話を掛けると、声を張り上げる堀井の後ろからグラスをぶつける音や大げさな笑い声がひっきりなしに聞こえてきた。
『あぁ!? なんだよ、ドタキャン? 急用でも出来たのかよ、夏子がキレてるぞ。いい加減相手替わってくれよ~田嶋ぁ~』
「夏子の機嫌なんか知るかよ。勝手にキレさせとけ。とにかく悪い。また連絡する」
『は? おいちょっと待て田嶋、』
電源を切ると、再び静寂が戻ってくる。
ガランとしたスーパーの駐車場まで歩きながら、今日の俺はどうかしていると思う。
宅配便が家に届くから飲み会を断っている俺。本当にどうかしている。
バスを待ちながらふと、駅の方を見る。こないだの日和の顔が思い浮かんだ。大きなスポーツバッグを抱えていた。群馬から東京に戻ってきてその足で俺の家へ向かうところだったのだろう。
―――あたしのメールにも電話にも出ないで、そんなことしてたわけ。
日和もつくづく馬鹿だと思う。
平日は仕事か寝るかどっちかで、休日は朝から晩まで日和に独占されているというこの状況で、どうして女子高生と浮気できる余裕があると思えるのだろう。ましてやスーパーで仲良く買い物だ? 今時ガキでも騙されない冗談だ。
<…頭が冷めれば、帰ってくるだろ>
それこそ、いつものバツの悪そうな顔で。本当は謝りたくないんだけど、とか自分に言い訳をしながら。
それは、いつ?
携帯を開いて待受画面のカレンダーを確認する。あれが28日だったから、もう三日目。喧嘩したまま年越しをするつもりなんて、いくら意地っ張りの日和でもそれはないだろう。…と、思う。
もう一度駅の方向を見る。だが、俺の目に見えるのは無人のロータリーだけで、代わりに日和の複雑な表情が脳裏に浮かんだ。
浮かんだまま、消えない。
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