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#extra. SIDE : Hiyori
1. Jan. ――p.m.12 : 50.
胸が苦しい。胸だけじゃなくて足も重い。思うように自分の体が動かない。
まだ夢の中で感覚が完全に目覚めきっていないのだろうか、と浮遊する思考回路が肉体とは別のところで考える。
「……うー……ん」
頭が重い。これは体が押さえつけられたように重いのではなくて、脳の中央からの衝撃が小刻みに頭蓋を震わせている感じ。二日酔いによくある症状だ。二日酔い……なんであたし二日酔いになるほどお酒飲んでるんだろう?
いきなり意識がはっきりとして目を開けると、真正面に雅貴の寝顔があった。
「ぎゃあ!!」
枕に鼻っ柱を押し付けるように眠っている雅貴は、右手をあたしの上半身に、片足をあたしの足の上に載せている。―――このせいか。なんなんだ、まるでマンガに出てくるような状況ではないか。よくよく省みてみると、本当にありえない状況だ。
実家の、両親が1階で寝ている部屋の自分のベッドに彼氏が寝ている、という図。
「……お前、うるせぇよ……」
寝ていると思っていた雅貴が、聞いたことのないほどのダミ声で唸る。あたふたしているうちに、雅貴が仙台に来てからの一連の出来事が記憶に蘇ってきた。雅貴が眠ってからあたしも寝たのだが、あれから3時間が経っていた。昼の12時をとっくに過ぎているのにお母さんは起こしに来ない。もしかして代わりに雅貴が起こしに来たのか。なのに一緒になって寝ているのか。
「なにしてんの、雅貴。寝てたんじゃないの、いつ来たの?」
「さぁ。10時ごろに一回トイレに起きてから、そのまま部屋に戻らずにこっちに来た」
「お、お母さんに会わなかったの」
「会ったよ。初詣行ったあと親戚の家に挨拶に行ってくるってさ」
「…………」
だから平然とあたしの部屋まで上がってこれたのか。それにしても。
「お前の部屋の匂いがする」
布団に鼻をうずめて、くんくんと匂いを嗅いでいる雅貴。絶対寝ぼけている。しかも今までに見たことがないような寝ぼけ方だ。硬直しているあたしをよそに、雅貴は目を閉じて布団をたぐり寄せて再び寝る体勢に入る。
<……やばい>
驚いたあまりに飛び起きたまま、再び雅貴の隣りに寝転がることが出来ずにいるあたしを、雅貴が寝たまま薄目で見上げてきた。何かと思えば、布団を持ち上げて“中に入れ”と合図する。
<だから、やばいって>
普段雅貴の家に泊まった時だってこんな仕草を見たことがない。寝顔以外にも、こんなにも無防備な雅貴を見たのは、初めてだ。
「お前の兄貴って今年帰ってきてないの」
ゆるゆる、と雅貴の懐に収まると、雅貴の腕が背中に回る。脳天に雅貴の喋る吐息がかかった。
「あ、うん。そうみたい、だね」
「てことは、……」
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