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どきり、とした。意味深なところで喋るのをやめないでほしい。
思わず息を潜めたのに雅貴が気付いた。
「お前、なんか期待してるだろ」
「! べ、別に何も期待なんかしてないってば」
「今動揺した」
「してな、―――……っ」
反論しようとした口を塞がれる。びっくりするほど柔らかな感触が唇を覆ったかと思えば、上半身に雅貴の体がのしかかってきていた。
「期待してるって言えばちょっとはかわいいなって思ってやるものを」
「だ、だだれがかわいいって思うって」
キスとキスの僅かな合間に囁く声は、お互いの唾液に濡れて甘い。久しぶりの感触だと思うと、心臓が肌を突き破って飛び出しそうなほど暴れまわる。どうしていいかわからず宙ぶらりんな手を雅貴が掴んで自分の背中に回させる。ぴったりと体がくっつくと、雅貴の少しだけ速い動悸が伝わってきた。
初めての時のように緊張しているのに、あたしの体は雅貴の体にフィットするように馴染む。着慣れたセーターみたいに。そうすると、もう無条件に心の底から安心してしまう。
<……気持ちいい…>
その感触に蕩けて目を閉じていたあたしの首筋や胸元に、キスが落ちてくる。啄ばんだり、触れたり、舌でなぞったり。雅貴の手のひらが、ゆっくりと胸の上を行き来し始めて、あたしはまた体を硬くした。それでも自覚はある。もう体の芯はとろとろに溶けていること。だから雅貴も何も言わない。雅貴だってあたしの吐息の速さと深さでわかっているはずだから。
カットソーを下からめくり、ブラジャーのホックは外さずに上からめくって敏感な場所を指で摘むと、堪えきれずに声を出した。すぐに我に返って口を閉じたけれど、雅貴の指はそれを許さないとばかりに口に含んで甘噛みする。
「っ、あ、……っ! や、だ、……」
「ヤダ、じゃない。―――いいから、お前は俺の服を脱がせ」
「~~~し、知らないよそんなの」
「あっそ。じゃあお前一人素っ裸になれな」
「なにそれ……―――って、ちょ、や、あぁっ!」
太ももに雅貴の手が触れたかと思うと、いきなり下着を脱がされた。そういえば寝る時に寝にくいからデニムのスカートを脱いでいた。雅貴はそれに気付いていたらしい。つくづく、手の早い男だ。
「お前……まだちょっとしか触ってないぞ、俺」
そこをなぞった雅貴が真顔になってあたしを見下ろす。真顔で見つめられても、あたしは何も言う事が出来ない。これじゃあ口で何を言っても説得力はない。
ゆっくりとなぞった指が、一番弱いところを掠めて往復を繰り返す。電流が走ったみたいに体を震わせるあたしを、波風一つ立たない瞳で見下ろしてくる雅貴と顔を合わせられなくて、布団を握り締めた。
「……もう溢れてる」
「…―――んな事、な…っ」
いつもの声が出てこない。鼻に抜ける甘い甘い声がまさか自分のものだなんて思いたくない。いつもならその場の雰囲気に流されてこんなこと気付かないのに。全ては雅貴の瞳が真剣だから。一人で勝手に乱れていくあたしを、これでもかというくらい真剣な眼差しで見つめてくるから。この人の瞳に写る自分を意識して、頭の中は冷静になろうとするのに体はそれと全く逆の反応を取ってしまう。
こんな真剣な雅貴、見たことない。
こんなに簡単に体が蕩けてしまう視線を、他に知らない。
「―――いつもより大人しいな、さすがに」
耳元にゆっくりと唇を近づけたかと思うと、そんなことを笑いを含んだ声で囁かれる。
「~~~ばか、…言ってんじゃないわよ……っ」
なけなしの理性を振り絞って反抗してみたそばから、熱い舌にぺろりと耳朶を舐められた。と同時に体の中に何かが入ってくるのを感じた。雅貴の指だ。容易くあたしを遠いところまで連れ去れる器用な指が奥の弱いところを探し当てると、あたしはもう勘念して目を閉じた。これ以上抵抗しても雅貴はやめるつもりなんてさらさらないんだろう。なによりあたしが手に負えないところまできている。
「……欲しいって言えよ……ひよ」
陥落することは簡単だ。
だけど、理性と本能が交錯するギリギリの瞬間が一番気持ちいい。
「……まだ、…もっと」
もっと、あたしを玩んで、焦らして。
何かを欲しがって体の奥が痙攣する。一向に表情を崩さない雅貴の指は、その表情からは想像もつかない激しさであたしの体を翻弄し始めた。快感の渦に巻き込まれていくあたしは、もう雅貴がどんな顔であたしを見つめているのかなんて、どうでもいい。ただ、その指の、熱い体の与える刺激を、目を閉じて追い続けるだけ。あたしも雅貴も、ただの獣になってしまえばいい―――
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