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「…信じられない」
「…………」
「―――しんっじられない!!」
「うるせえな」
「うるさいなじゃないよ! あ…っありえない…」
まさか実家のベッドで、正月早々してしまうなんて。親の不在をいいことに。してしまっているのだからどうしようもないのだけれど、でも後悔の波に押し流されずにいられない。
一方雅貴は、けろりとした顔をしてシャツのボタンをはめている。声にならなくて枕をその背中にぶつけた。
「いてぇ! ったくお前はすぐそうやって暴力に出る」
「うるさいっ、ちょっとは我慢とか知らないのあんたは!」
「日和だってノリノリだったじゃねーか。何もしてないのにあれだけ……」
「うるさい! うるさいうるさい、さっさと東京帰れバカー!!!」
「お前が一番うるせぇよ!!」
何度も殴りつける枕を取り上げて雅貴が再び押し倒してきた。びっくりして思わず閉じた目を開くと、また真面目な顔をした雅貴と目が合った。
「言われなくてもすぐに帰るよ。―――その代わりお前もすぐに帰って来いよ」
「…雅……貴」
「スリッパ。俺の家で使うんだろ」
「…………」
無言のままのあたしを、雅貴はからかうのとは少し違う苦笑をしながら見つめる。そう、少しだけ照れたような困ったような、そんな苦笑。
「土日しか相手してやれないけど、お前が暇なら平日にも泊まりに来れば?」
けろりとしてそんなことを言い放ったかと思うと、唖然として返事を返せないあたしの鼻を悪戯につまみ、こう言い直したのだ。
―――泊まりにっていうか、いっそ住み着けば?
End.
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