番外編 君とワンダーランド!

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翌日は【ナイトスペース】の放送日。いつものようにスタッフがリスナーから届いたメールを選定していた。ある程度選定したものから、さらに俺が読むのを選ぶのだ。 ミネラルウォーターを飲みながら喉の調子を整える。今日のテーマは『最近落ち込んだこと』。こういうテーマはコメントしにくいから嫌なんだけどなー。 「有村さん、じゃあこの中から選んでください」 テーブルに印刷されたメッセージに目を通す。どれも本人にしたら落ち込むだろうけどクスッと笑えるものが多くてホッとした。そして次のメッセージに目を落とす。 『初恋が叶ってお付き合いしている人と、喧嘩してしまいました。早く仲直りしたいです』 その一文が胸に突き刺さる。このメッセージは紛れもなく大智だ。大智は今でもたまに【ナイトスペース】にリクエストメールをくれるのだが、恥ずかしいのかたまにペンネームを変える。今回のこのメッセージだって名前が違う。だけどこれは絶対、大智だ。俺はその紙を持って、マイクの前に座った。 本番が始まり、メールのコーナーとなる。今日三通目のメールを俺は読み上げた。 『さて、続きましてはこの方ですね。初恋叶ってお付き合いしている人と、喧嘩してしまいました。早く仲直りしたいです……かあ。あれ、もしかして以前、メッセージくれた人かな?初恋実ったよって報告してくれたよね。そうか、喧嘩かあ、それは辛いね。どんな内容かはわからないけどきっと恋人も寂しくて謝りたいと思ってるよ。これから長い付き合いになるんだから、喧嘩もする。でもきっと恋人は君を離さないと思うから……謝ってきたら許してやって』 だから、大智。ごめんな。俺はそう心で謝りながらマイクに向かう。 『ではリクエストの曲を』 メールにはリクエストの曲はなかった。だけど俺があえて流したその曲は大智が大好きだと言っていたアーティストのもので、喧嘩するまえにドライブに行った時にも聴いていた。こんなことしかできないけど、DJの有村彗にしかできないプレゼントを、大智は喜んでくれるだろうか。 放送を終えて一息つき、スマホを見るとメッセージが入っていた。それは大智から。 『この前の、ラーメン屋さん行きましょう』 待ち合わせたラーメン屋の前に、大智がいた。俺に気づくと少しだけ頬を膨らませながら『お疲れ様です』と言ってくれた。 そんなにすぐには許さない、と言った感じだろうか。思わずポンポンと頭を撫でて店に入る。いつもならご飯は割り勘にしているけれど、今日ばかりは俺の奢りだ。 大智は豚骨ラーメンを、俺は塩ラーメンを啜る。無言で食べているとポツリと大地が呟く。 「僕、あの曲をリクエストなんてしてなかったのに」 ラーメンに視線を落としたままの大智の顔は分からないけど、耳が赤くなっている。やっぱりあのメールは大智だったのだ。そして、放送も聴いていてくれたんだ。 「俺の特別なリスナーへのプレゼント」 耳元でそう言うと大智は小さく『ずるい』とつぶやいた。 ラーメン屋を出た後は、二人で大智の部屋に帰った。ソファに座り、お茶を出してくれた大智は『さあ説明してもらおうか』と言わんばかりの顔をしていた。 お茶を一口飲んだ後、俺が自分のくだらない嫉妬話を一から説明する。【DJワンダーランド】で大智が塩崎さんばかり見ていたことに嫉妬したこと。塩崎さんと二人で盛り上がったり、彼の話ばかりでつまらなかった事。ステッカーにさえ、嫉妬してしまったことなど洗いざらい話した。話し終えると、大智は口を尖らせ、抗議してきた。 「ラジオパーソナリティとして塩崎さんと彗さんどっちが好きだなんて、そんなの彗さんに決まってるじゃん!彗さんは別格なんだから!そんなの、言わなくたって、分かるでしょ」 カンカンになって俺の胸を叩く大智にごめん、と平謝りする俺。 「どれだけ……彗さんの言葉に救われて、幸せになってるか……そんなの、言わなくたって……」 今にも泣きそうな大智の声を聞いて、大智の体を抱きしめた。 「ごめん。ほんとにごめんな」 頬にキスすると、大智は拗ねた顔をしながらも、こっちに顔を向けて唇にキスをしてきた。 「……寂しかったです。やっぱり彗さんがいないともうダメです、僕」 それを聞いて俺はもう一度強く抱きしめた。連絡をしなくなったのは一週間だ。たったそれだけなのに、もう何年も会えなかったくらい、今腕の中にいる大智が愛しくてたまらない。 もう一度キスして、ソファーに大智の体を横たわらせた。
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