番外編 君とワンダーランド!

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翌日は久しぶりに激しい二日酔いでなかなか起きれなかった。昼過ぎになってようやく布団から体を起こす事が出来るようになり、熱いシャワーを浴びてスープを飲み、ようやく落ち着いた。 スマホを見ると何通かメールが入っている。そのうち一つは塩崎さんからのお礼のメール。そして大智からもメールが入っていた。二人のメールを受信した時間は五分も空いてない。こんなとこでも仲良しかよ、と舌打ちしたけれどあまりに自分の考えがアホすぎてため息をついた。夕方、大智のバイトが終わったら電話をしよう。声を聞けばこんなモヤモヤは吹き飛ぶはずだ。 そう、思っていたんだけど。実際にはもっとモヤモヤする事態となった。 電話すると大智は俺が食事に誘ったこと、塩崎さんに合わせてくれたことにお礼を言ってきた。その嬉しそうな声に、思わず笑ったんだけど、そのあとはずっと塩崎さんとどんな話をしたとか、彼の番組の話とかを熱っぽく聞かせてきた。 『彗さんがオススメしてた、小イワシの天ぷらをずっと美味しいねって塩崎さん食べててね。近所で売ってたら毎日買っちゃうって言ってた!あと『春鳩』は友達にも飲ませたいから、お土産に買って帰るって』 『へぇ、そんなに気に入ってたの』 まるで恋人ができたばかりの浮かれた友達の話を聞いているみたいで、なんだかウンザリしてきた。この時俺は初めて大智からの電話を切りたいと思ったんだ。 『大智、ごめんけど続きは今度聞くから』 『ごめん、うるさかった?』 『大丈夫だよ。ただまだ酒が抜けきれてないのかも』 『確かにいつもより多かったもんね。じゃあまたメールするね』 まさか俺が早く電話を切りたがってるなんて、夢にも思っていないだろう。電話を切ると俺はスマホをベッドに投げつけ、ため息をついた。 それからの俺はダメダメだった。フライパンは焦がすし、仕事中もリクエストメールを間違えて読んだり。プロデューサーに久々に注意を受けため息をつく。いかんいかん、仕事に影響するようじゃ社会人として失格だ。 それから数日して大智との関係は相変わらずだけど、メールや電話はめっきり減った。俺からの連絡が減ってきたのを大智は鋭く気がついたようで、遠慮しているのか、彼からも連絡が減ったのだ。 何となく気まずい日々が続いたある日、これじゃダメだよなと思い、休みの日に二人で映画を観に行くことにした。その判断が、良くなかった。もっと最悪なことが起きてしまった。 待ち合わせした駅でお互いの顔を見た瞬間に気まずさは吹っ飛んでいき、映画も楽しめた。終わった後に歩きながらさてコーヒーでも飲みに行こうかと話していると、そうだ!と大智が財布から小さなステッカーを取り出して俺に渡してきた。俺がなんだろうと頭を傾けていると、大智が嬉しそうに言ってきた。 「これね、塩崎さんの番組のステッカーなんだ!」 「へえ、もらったんだ」 うん、と笑う大智。またモヤっとしたけどここは我慢……とステッカーを大智に渡すと大切そうにしまう。 「あとね、今度名古屋に遊びにおいでって言われてさ」 その一言がどうやらトドメだった。ニコニコしながら歩く大智。いつもの笑顔にカチンと来た。お前、一人でノコノコ行く気なの?そんな無防備な笑顔で?塩崎さん大好きってオーラ出しっぱなしで行くのかよ。その場で立ち止まってしまった俺を不思議に思い、振り向く大智。 「彗さん?」 「行ってきたら?名古屋。きっとアキくんも大喜びしてくれるんじゃない?」 鏡があるわけではないから見れないけど、俺はきっとかなり不機嫌な顔をしていたのだろう。大智の顔が驚き、そして不安そうな顔になっていく。 「なんでそんなに、怒ってるの」 「怒ってなんかないよ。呼ばれてるんだから、行ってくればいいって言っただけ」 「そんな言い方、なんかいつもの彗さんじゃない」 「いつもの俺って何よ」 気がつくと俺は大智に当たり散らしていた。 「アキくんも『僕が大好きな大智くんが来てくれたー』って、抱きついてきてくれるかもよ?」 そう言うと、大智は明らかさまにムッとした顔をする。俺が覚えている限り、初めて俺に対して怒った顔を見せた。 「何なんですか、最近彗さんおかしいよ!電話しても上の空だし、変なこと言うし」 「ああそう?」 「もういいです!今日は帰ります!」 そう怒鳴ると、大智はプイと俺に背中を向けてさっさと行ってしまった。完全に怒らせた。でも大智が悪い。俺がいながら、塩崎さんのことばかり話すんだから。
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