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その日から大智からのメールも電話も、ぷっつりと途絶えてしまった。俺は悪くないぞ、と思いながらもスマホの画面を何度も見てしまう。
今日で一週間。俺も頑固だけど、大智もなかなか頑固だ。そして冷静になってくると自分が言い過ぎたのかな、と思えてきた。いやでもあれは大智が鈍感すぎるんだ。何度もそんなことを考え、自分を正当化していた。
仕事を終え、夕食を取り、ビールを飲みつつ部屋で過ごしていたら、スマホが着信を告げる。それは今、声を聞きたくない相手だった。
『お疲れ様です、塩崎です。いま大丈夫ですか』
う……爽やかな声しやがって。俺はつい声が低くなってしまう。
『お疲れ様です。少しなら大丈夫ですけど』
『よかった。先日のお礼、ちゃんと言えてなかったので連絡したんです。美味しいお店に連れて行っていただきありがとうございました』
真面目くんかよ、と思いつつも塩崎さんの好青年っぷりに胸が痛む。勝手に八つ当たりしてるもんなあ。
『あの日、有村さんにお声掛けさせてもらってよかったです』
ああもう、やめてくれ。自分が情けなくなってくる。
『……アキくん。いま時間ある?』
さっき、俺は塩崎さんに少しなら大丈夫と答えたくせに、自分から時間あるかって聞くなんてと自分自身に悪態をつく。
『大丈夫ですよ』
情けない俺の話を、塩崎さんはどう思うだろう。大智がラジオパーソナリティとして、好きなのは塩崎彰久なのか、有村彗なのか。こんなこと、聞かれても塩崎さんだって困るだろう。俺は酔ってるんだろうな、こんなこと聞くなんて。
『恥ずかしい話なんだけど、ご飯行った後大智の奴ずっとアキくんの話ばかりなんだよ。いかに塩崎さんの声がいいとか、番組がいいとか。ステッカーも見せてもらって。いや、分かってんですよ、そりゃめちゃ好きなDJがきたら浮かれてしまうことくらい。だけど、お前が好きなDJは有村彗じゃなかったのかよって。声に癒されますって言ってたじゃないかよって』
そこまで一気に話したあと、しばらく沈黙して、ハッとした。うわ、俺めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってねぇ?
『ええ?大智くんが好きなのは有村さんが一番に決まってるじゃないですか。ご飯食べてる時もずっと有村さんの話してたし』
『塩崎さんの番組の話で盛り上がってましたよね』
『そりゃそうですけど…だけど彼がラジオのめり込んだきっかけは【ナイトスペース】なんだって言っていたし、有村さんの声がなかったら僕の番組なんて聴いてなかったはずだよ』
『……』
『羨ましいなって思いましたよ、あんなに思ってくれるファンがいるんだもん。だから、有村さん。自信持って』
塩崎さんの優しい声に、不覚にも鼻がツンとしてしまう。
『ありがとう。情けないこと言って恥ずかしいな。年下の塩崎さんに慰められて』
『え?僕、有村さんと同い年のはずだよ。【DJワンダーランド】の資料に年齢書いてあったから同い年なんだなって』
それを聞いて驚く。塩崎さんの顔と口調でてっきり年下だと思っていて、年齢のところなんて見ていなかった。
『ゲストの資料、ちゃんと見ておいてくださいね』
『うわ、恥ずかしい』
『まあ僕も恋人が有村さんばかりみてたら、妬けちゃうかもな』
『へっ』
思わず変な声が出て、聞き返すと塩崎さんは大智が恋人なんだと分かってましたよと笑う。大智に教えてもらったわけではなく、俺らの雰囲気でピンと来たらしい。穏やかな可愛らしい顔をしているのに、なかなか鋭いな、塩崎彰久。
『そうそう名古屋においでって言ったのも、一人でとは言ってないよ。いくら何でもすぐそばに恋人がいるのにそんなこと言えません』
トドメを刺されて俺はひとり、顔を真っ赤にしていた。
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