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「美和、聞いてくれっ!」
僕はスパーン! と勢いよく襖を開けて登場した。
「キャアアアアッ!! 変態っ!」
美和は絶叫した。顔はラクガキだらけ、頭に妻の赤いパンツをかぶって娘を抱っこしている僕はどう見てもヤバイ夫だった。
「変態ッ、スケベッ、浮気男! 花を放してよ!」
「パパのばんだよー。『う』ー!」
「『う』ー! 浮気なんてしてない!」
「嘘言わないで! その上痴漢だなんて、信じられない!」
「さっきの電話は振り込め詐欺だってば! 痴漢なんてするわけないよ!」
「『よ』。よこしまー!」
「さ、詐欺!? あなた、そんな邪なことまで!? 私からお金を騙し取ろうとしたの!?」
「なんでそうなるー!?」
「浮気相手と結託してたのね!? 許せない、昨夜は誰と一緒に居たのよ!」
「パパのばんだよー。『ま』!」
「『ま』! 牧だよ!」
「マキ!? それが女の名前なの!?」
「いや、会ったことあるでしょ!? 同期の男だって!」
「嘘おっしゃい!」
「『て』ー、『て』ー。てんやわんや!」
正しくてんやわんやだ。興奮した妻は僕の襟をぎゅうぎゅう絞めてガクガク揺さぶる。苦しい苦しい! その時、玄関のチャイムが鳴った。
「――あ、開いてる。高谷ー、上がらせてもらうぞー!」
牧だ! 助かった、これで無実の証明ができる!
「昨日は悪かったなー! おかげさまで、結衣が帰ってきてくれたぞ!」
「お邪魔します。すみません高谷さん、憲一君がお世話になってしまったみたいで……」
リビングにドスドスと入ってきた牧の後ろから、すまなそうに小柄な女性が顔を出した。
「あ、結衣ちゃん……仲直りできたんだ?」
「仲直りもなにも、ケンカしたわけじゃないんですよ。おばあちゃんが心配だから実家に帰ってただけなのに、憲一君が勘違いしちゃって……そのせいで高谷さんに多大なご迷惑を」
「いや、結衣ちゃんが謝ることじゃ……大丈夫だよ!」
「いえ、全然大丈夫に見えないです」
結衣ちゃんは僕の姿をじっと見て、そっと目をそらした。僕はあわてて頭に装着されたままだった赤いパンツを脱ぎ、妻をふり返った。
「美和! 聞いただろ? 昨夜僕は牧の家に居たんだよ!」
「そうなんだ! 高谷はずっと俺の側に居て、優しく抱きしめて背中をトントン叩いたり、ひざ枕して子守唄を歌ったりしてくれたんだ!」
美和と結衣ちゃんがサッと僕を見た。
「パパ、『てんやわんや』のつづき! 『や』!」
「やめてくれぇぇぇっ!」
僕は赤面し叫んだ。
牧は「あっはっは」と笑っている。お前も少しは恥ずかしがれよ!
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