星の下で

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 偶然にもこの期間に上映されていたのは私も楠太朗もどちらもが好きなアーティストの曲とコラボしたものだった。運が良すぎる、もう死ぬというのになんの意味があってラッキーが続くのだろう。  隣に座る楠太朗を見ると、力の抜けた表情のまま全てを受け入れるような顔で上映されている星空を眺めていた。楠太朗は今、何を考えているのだろう、私みたいに揺らいでいるのだろうか。それとも。  好きな曲とともに流れるプロジェクションマッピングと星空。夜の街並みが走り抜ける映像にオリオンが浮かぶ。大好きなこの曲も、死に場所を探している私たちにぴったりな葬送の曲に聞こえてしまう。さよならをするにはあまりにも合っている曲。そして、私の誕生月の星座を取り上げたエピソードトーク。落ち着く声のナレーションで読み上げられる古代から言い伝えられている逸話。  ふとぼやける星空に、自分が泣いていることに気づく。もう家に帰らなくていい安心感。こんな夜に、こんな場所で時間を過ごしているというイレギュラーが、私を安心させた。そしてその安心が連れてくるのは、生きたいという自分勝手過ぎる感情だった。グッバイ、そう曲の中で流れる度にこの世から去る想像をした。消えたい、帰りたくない、だから死にたい。でも、もし。消えずに済んだとして、帰らずに済んだとして、そしたら楠太朗と一緒にどこかに逃げてしまえるのでは。あの時布団の中で「死にたい」と口にした瞬間からずっとそんなことばかりを考えている。私はただ消えたいだけで、その隣に楠太朗がいてくれればそれでよかった。でも、楠太朗はどうだろう。  こんなにも安らかな顔をしたまま上映されている星々を眺めて、それは全てを受け入れているということなのだろうか。  私はひとり、楠太朗がこの世から去ることを想像して静かに泣いた。ワガママばかりだ、消えたいけれど楠太朗には生きていてほしい。けれど、楠太朗が死にたいというのなら、私も連れて行って欲しい。この世にもう未練はないはずなんだから。 「まさかあの曲が使われてるとはね」  上映が終わり、明るくなる館内を見渡しながら楠太朗が話しかけてきた。泣いているのがバレないよう私は必死に目を擦りながら返事をする。 「ね、タイミング良すぎてさ、なんか、ほらよって背中押されちゃったよ」  笑いながら話す私を真っ直ぐと見つめながら楠太朗は席を立って頭を撫でた。 「そろそろ行こっか、色々探しに」  死に場所探しに誘うには場所も時間もきっと間違っていた。人の少なくなったプラネタリウムの館内でロマンチックに手を繋いで話し合うことでは決してなかった。けれど私たちにとっては何よりも大切なことで、やりたいことを済ませた今、終わらせた今、次に考えるのは当たり前に、当たり前のように、自分たちの終わらせ方だった。どこで終わらせるか、それを探すために今度はまたホンモノの空を見上げに外へ出た。  帰路を急ぐ人、この場で一夜を過ごす余裕のある人々。大きな声で呼び込むキャッチのお兄さん。左右から配られるポケットティッシュ。この量を使いきれるほど私は生きていかないよ、そう口には出さずともに思いながら断れずに受け取ってしまう。  小さなリュックで来ていた私の上着の両ポケットはポケットティッシュでパンパンになっていて、なんだか情けない。
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