魔法少年は帰りたい

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~不思議な体質~  菜穂がドロシーに隣の部屋に連れていかれるのをベルは手を振って見送る。一体何を考えているんだこいつは。 「ん? ああ、残念だけど今回はリンは出られないよ。書類を偽造したのはナホの分だけだから。リンが虹級に挑戦するのはまだまだ先かな」  虹級―― 魔法検定最高位。俺が持っているのはその一個前の白級。そもそもとれるわけがない。 「……そうじゃなくて。いや、あいつに検定を受験させることは納得した。けど、その……」  あまりに話が早いじゃないか。俺が菜穂と出会ったのもまだ一か月も経ってない。さらに婚約……とか、その風習を知らなかったとはいえ勝手に契約魔法まで結んだというのに、どうしてこうも菜穂の協力に肯定的なんだ。  俺が言葉に詰まって黙っていると、ベルはクスリと笑った。 「心配しないで。全部俺に任せておけばいい。リンはリンのやるべきことをやればいいんだ」  声色は優しかったけれど、言葉の意味はどこか寂しかった。子ども扱いされているのが悔しいのもあるかもしれない。事実、ベルに任せておけば大抵のことは簡単に解決するだろう。それはわかってる。けど、俺だってもう何もできないただの子供じゃない。  ただ、この思いだって俺のわがままだ。それもわかっているから、もう一つ気になっていたことをベルに聞いて話を変えた。 「なぁ。お前には菜穂の魔力が見えるんだろ? じゃあ、どうしてあいつがあんな体質なのかもわかるのか?」  魔法の効果を弱める特殊体質。そんなの、公爵家だって持ち合わせていない。ばあやは言わなかったけれど、契約魔法が完全成功しなかったのも、たぶんそのせいだ。  ショウはいたずらっぽく笑って、声を潜めて言った。 「――呪いだよ」  言葉に俺は首をかしげる。なんのことだかさっぱりだった。そんな俺の反応を楽しむように、ショウはまたクスクス笑って、そのまま杖を一振りし唱えた。 「『人形と踊ろう。テーブルの上で、ティーカップの周りで』」  これは空縮魔法の詠唱!?  体がむず痒くなって淡く輝く。そしてあっという間に俺はベルの靴より一回り小さいくらいになった。  ベルは続けて唱える。 「『空飛ぶ魚も水が奪われ、海行く鳥も翼が削がれる。格子を築くは陽の光』」  今度は鳥籠魔法。見る見るうちに目の前で鋼の檻が形成される。逃げようと走り出したときにはもう遅かった。出来上がった檻に頭をぶつけてこけてしまった。  ベルは鳥籠の持ち手を掴んで持ち上げると、胡散臭い笑顔で言った。 「ごめんね、リン。今回リンにはおとなしくしててもらいたいから、念のためこうさせてね。大丈夫、あとでベッドとか準備するから、結構快適には なると思うよ」 「何で、こんな……?」 「明日の検定はちょっと特別でね。念のためだよ念のため。詳しいことはまた明日話すからさ―― 『眠れ』」  スッと檻の隙間からベルの杖が伸びてきて俺の頭にちょこんと乗せられた。途端に睡魔が襲ってくる。くそ、寝てる場合じゃないのに。眠る……あれ、何で俺、リンの魔法くらってるんだ? 短縮しているとはいえ、普通魔法なのは変わらない。それなら菜穂との契約で無効化できるはずなのに。 「残念ながら、リンにナホの呪いは共有されなかったみたいだね。いや、むしろ共有されなくて良かったか。あればっかりは俺にもどうしようもないからね」  そんな声がうっすらと聞こえる。もうダメだ、限界だ。俺はその場でぱたりと倒れて、そのまま意識をどこか遠くへ飛ばしてしまった。
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