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~常夜の深夜に~
ミクリさんに連れられお風呂に入り、パジャマに着替えて客室へ。何から何まですごい。お風呂なんて学校のプールくらいあったのに、ミクリさんが言うにはあれより大きいのがあと二つもあるらしい。廊下はとっても長いのにちゃんと掃除されてて、蜘蛛一匹すらいない。案内されたお部屋は今まで止まったどのホテルより、もっと言えば絵里ちゃん家よりも広くて豪華だし、ベッドなんか宙に浮かんでいる。
「それではナホちゃん、星が新しくなったころに起こしに来るから、それまでしっかり休んでね」
「星が新しく?」
聞きなれない言葉に首をかしげると、ミクリさんが苦笑して言った。
「ああそっか。科学界では確か”朝”っていうのよね。朝とか昼って、おとぎ話でしか出てこないから、コルレガリアでは使わないんだよ。ほら、こっちはずっと星が見えているけれど、ナホちゃんの住む世界では星が見えなくなるくらい空が眩しくなるんでしょ?」
星が見えなくなるくらい…… 理科の先生は暗いところだから星がよく見えるって言ってたんだけどな。
私がさらに首を大きく傾けていると、ミクリさんはクスクス笑ってドアを閉めながら言った。
「とにかく、しっかり寝て、明日に備えて。それじゃ、また明日」
ぱたんと小さく音が鳴ってドアが閉まった。言われた通りとりあえず寝ようと、浮いてるベッドに飛び乗った。私が上に乗ってもベッドは宙に浮いたまま。ふわふわしていて面白い。ベッド自体もふかふかで……なんだか落ち着かない。
仕方がないから立ち上がって外に出てみることにした。星明かりがさす、ガラスの戸を開け、ベランダに足を運ぶ。空から見た景色同様、ランタンが風船のように宙を舞う。さっきまで夜を照らしていた青白い月もいつの間にかいなくなって、残ったのは空にぽかりと穴をあいているかのような真っ暗な月だけ。私は星座とかは全くわからないけれど、ここの空は明らかに知らない空だった。星が多くてきれいだけど、なぜか少し怖い。部屋に戻ろうと空に背を向けると、途端空の方から声がかけられた。
「もう少し一緒に空を見ない?」
びっくりして振り返ると、当たり前のようにショウが宙に立って手を振っていた。ショウは一度ふわっと浮き上がってベランダに足を下した。私もベランダに戻ってショウを見上げる。
「どうしてここに?」
明日の準備とかで忙しくないのかな。魔法検定、確かショウが主催のはずなのに、ショウはにこにこ笑ったまま言った。
「リンが先に寝ちゃってね、君はどうかと思って様子を見に来たんだ」
そっか、宮地くん寝ちゃってたのか。そういえば来る前から寝むたそうだったな。私は……。まだ眠れそうにない。
「ここに君が来たばかりの時、こっちはずっと夜だって説明しただろう。言い変えれば、太陽がないんだよ。代わりにあるのはあの暗い黒月さ」
真っ暗なのになぜかくっきりと見える黒い丸。周りの星の明るさがその空の穴を強調している。
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