魔法少年は帰りたい

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~天虹の魔女~  目を覚ますと相変わらずの鳥籠の中。眠る前と変わってるのは、ベッドやいすなど、一通りの家具がそろっていること。なるほどたしかに随分と快適にはなった。……けど牢獄であることに違いない。  鳥籠は何かにつるされており、俺が少し動くだけでゆらゆらと動く。近くに飛び移れるものはなく、スティックもポケットからなくなっている。  籠の外は全く知らない女の部屋。使用人の部屋にしてはあまりには華やかだが、客間にしてはあまりに私物が多すぎる。化粧台には数えきれないほどの小瓶がおいてあり、ハンガーラックにはコートやらドレスやら派手な服がたくさんかかっている……一体誰のだ?  まさか別の建物に移されたのだろうか。それにしては部屋の作りが屋敷と似すぎている気もするが。  そんなことを考えていると、不意にガチャリとドアが開く。 「……あら起きたの?」  あくびをしながら女は籠の前にやってきた。  金の髪に桜色の瞳。歳はベルと同じくらいだろうか。結っていた髪からピンを抜くと、さらさらと崩れて背中にかかる。この姿、誰かに似ているんだけど……思い出せない。 「警戒しなくても大丈夫よ。私はあなたのお兄さんにあなたを監視するように頼まれているだけだから。……それとも緊張しているのかしら?」 「なっ……!?」  女は籠を持ち上げるとくすくす笑いながら俺を覗く。 「こんな美人と部屋で二人っきりだもの。ふふっ、どうして欲しい?」  女は目を細めてあおるように俺を見る。 「……お前は誰だ」 「私が先に質問してるんだけど。ねぇ、あなた菜穂のこと好きなの?」  好っ―― !? 俺が何も答えずにいると女はまたクスクスと笑って言った。 「黙秘は賛成と同じ、ってね。ていうか、あなたすごくわかりやすくて面白い! 顔真っ赤になってるわよ」  いわれて気づいた。今すごく顔が熱い。 「あはっ、もっと赤くなった」 ……くそ、人で遊びやがって、しかし、『黙秘は賛成と同じ』か。その言葉には聞き覚えがある。たしか初めて菜穂と話したあの日――。 「お前、菜穂の姉か?」  女は目を丸くして一瞬固まった。かと思えばにやりと笑って「正解」と言いながら籠をベッドの上に置いた。そして籠のすぐ隣に座って話し出した。この角度だと、女の顔が見えなくて、何を考えているか余計にわからない。 「そう、私は菜穂のお姉ちゃんの桜井(かな)。よろしくね、リン・パラディフィールドくん」  そういって籠に指を入れてきた。握手の代わりだろうか。とりあえず指先に触れてみる。 「――痛ででででっっ!!!」  触れた瞬間、全身に電流が走る。慌てて手を離すとさっきとは違ったあか抜けた笑い声が部屋に響いた。 「アハハっ! あなた本当に見えてないのね。全然あの人と似てない」  あの人……ベルのことを言っているのだろうか。 「お前は何でここにいる? 魔法界へはどうやってきた?」  奏は俺の質問を無視して、さっきおろした髪をもう一度結い上げてお団子を作った。そして立ち上がって言う。 「……残念。時間切れよ」  奏は胸元から杖を取り出し籠のふちにあてた。 「悪いけど、今日一日は我慢してもらうわ。『私のお友達になって?』」  知らない詠唱。何だ、何の魔法だ? 奏が唱えた途端、籠全体が七色に輝く。眩しくて目を閉じていると――あれ?  奏はどこから取り出したのか、はさみを籠の網にあて、あっさりと切り開いた。そして手を伸ばし俺をひょいっと摘み上げ――そう摘み上げたのだ。文字通り、ぬいぐるみになって動けない俺を。 それじゃ、いきましょ? かわいいかわいいリンぐるみちゃん」  奏は俺の首に鈴をつけると胸ポケットに入れて歩き出した。
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