魔法少年は帰りたい

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~検定開始~  朝起きても魔法界は真っ暗。もしかしてまだ夜なのかなと思ったくらい。  朝ごはんを食べてもらった服に着替え終わったのに、宮地くんがどこにもいない。探しに行こうにも屋敷の中はよくわからないし、いつ魔法検定がはじまるかもわからない。どうしたらいいんだろう、と立ち止まっているとショウが迎えに来てくれた。 「ルワーユ。昨夜はよく眠れた?」  ルワーユ、そう返そうと思ったけど、それどころじゃない。 「あの……」 「おい、助けてくれ! ここから出して!」 「そろそろ検定が始まる時間だからね、会場まで案内しようと思って」 「おい、話を進めるな! さきにここから出せ!」  途中に挟まるのは必死に叫ぶ宮地くんの声。どこにいたかというと、ショウの隣、に鳥籠のようなものに入った小さな宮地くんがふわふわ浮いている。おそらくショウの魔法だろう。前にもショウが小さくしているのを見たことがある。 「ええっと……宮地くん、一体何したの?」 「何もしてねぇよ! 急に縮められて檻にぶち込まれて、眠らされて……なんかぬいぐるみにされて、また檻に入れられて……とにかくこっちは大変だったんだぞ!」 「何言ってるの?」 「がぁああああああ」  頭をわしゃわしゃ掻いて呻く宮地くん。いろいろあったんだなぁ。  ショウはクスっと笑って私に手を差し出した。 「さぁ行こう。大丈夫、リンはこのままでも―― おっと」  途端、ボンっと音がして宮地くんの檻が煙に包まれる。かと思えば中から等身大の宮地くんが現れた。 「も、戻れた……」  突然の出来事に驚く宮地くんを見て、ショウは苦笑いして自分の後ろ頭を掻いた。 「うーん、リンをナホの前に連れてきたのは迂闊だったかな。君らの契約は少し特殊だからなぁ……まぁいいや、それじゃ行こうか」 「もう一度魔法をかけ直さないのか?」  宮地くんが怪訝そうに首を傾げる。ショウはまた私に手を差し出しながら首を振った。 「ナホが近くにいるからね、少しめんどくさいんだ」  つまりええと……私のおかげってこと?  よくわからないけど、とりあえず差し出されたショウの手を取ろうと手を伸ばすと横から宮地くんが入ってきた。 「俺が連れてく」  ギュッと宮地くんは私の手を握ると、ショウを見て睨んだ。ショウはクスクス笑って言った。 「残念だけどリンは会場に入れないんだ。関係者以外立ち入り禁止でね。いかにパラディフィールド家の人間だとしても、俺が登録した者以外は入っちゃいけないことになっているんだ」  ショウは私と宮地くんの肩に手を置くと静かに魔法を唱えた。 「『扉の先は思い出の地』――会場前へ」  すると私と宮地くん、そしてショウだけを残して、辺りの景色が真っ白に変わった。ええっと、これは……たしか瑠浦(るうら)魔法。思った場所に瞬間移動できる魔法だ。  辺り一面の白色はだんだんと薄くなって周りの景色がうっすらと見えて来た。そこはなんだか薄暗い廊下。進んだ先に大きな扉が待ち構えるように立っている。 「あの扉を抜けると魔法検定の会場さ。ナホと話したいならここで話すしかないね」  宮地くんはチッと舌打ちして、私の腕を引っ張って扉の前へ移動しショウから距離を取った。ショウは同じところに立ち止まったままニコニコと私たちを見ている。  宮地くんが私の両肩を掴んで言った。 「いいか? この検定、おそらくお前を試すためにベルと―― いや、ベルがいろいろ企てている。まぁ、本当に危なくなったらベルが助けてくれると思うけど、その場合、お前の処分がどうなるか俺には予想できない。お前自身の力を示さないといけないんだ。……できるか?」  私自身の力…… 「でも、宮地くんの使える魔法は私使えるんだよね?」 「いや、たぶんそうだけど、そういうことじゃなくて…… 行動力とか、判断力とか、なんかいろいろあるだろ? ……まぁ、お前が緊張してないことはわかったよ」  宮地くんはやれやれと首を振ってため息をついた。それからにっこり笑って言った。 「とにかく、頑張れってこと。そういうのが言いたかった。……おい、ベル! もういいぞ」  それを聞いてショウは私たちの方へ歩き、私に「これを」と言って何やら空色の丸いバッジを手渡した。 「それは受験者の証。それを見えるところに付けて、このドアの向こうの広場でしばらく待っていると、そのあとの指示がだされる。あとはそれに従って試験を受けるだけ。単純だろ?」  要はバッジ付けて外で待ってろ、ってことかな。たしかに単純だ。 「それと君の登録名はサクライ・ナホ改め、ナホ・ブロッサムだ。名前を聞かれたらそう答えるように」  ショウがそう言うとベルが「ブロッサム!?」と驚いた声をあげた。 「有名な名前なの?」  私がそう聞くと、宮地くんが答えようとするのを押さえてショウが説明してくれた。 「昔いた貴族の名前さ。今はもう屋敷は無くなってしまったけどね。今回君はその生き残りってことにして受験者登録をした」  無くなった貴族のお名前か……なんだか申し訳ないな。手を合わせてお祈りしとこう。 「それじゃ、ナホ。行っておいで。怖がらず、勇敢に。君の信じた道を示すんだ」
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