魔法少年は帰りたい

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~さくらんぼはいずこに~ 「宮地くん!」  大広間に案内されてまず、目に入った姿の名前を呼ぶ。そのまま走って宮地くんに抱き着くと、安堵した顔で言った。 「良かった、無事だったんだな。……いや、ベルの仕込みだったら当たり前か」  宮地くんはショウの方を向くと、感謝を述べるわけでもなく、ただただ何か不満そうに黙ってにらんだ。ショウはそれをまったく気にも留めていないようで、またにっこりと笑って両手を広げた。 「リン! 元気そうで何より。ほら、再開の抱擁といこう」 「誰がするか!」  ぴしゃりとそう言うと宮地くんはショウの方へずんずん進んで、その勢いで彼に言った。 「それで、一体俺たちを呼んで何の用なんだ」  あ、それを聞くのをすっかり忘れていた。私もショウの方へと移動する。 「まぁまぁ、とりあえず二人ともお腹すいてるんじゃないか? ご馳走を用意しているから一緒に食べよう」  ショウはにっこり笑ったまま私たち二人をくるりと反対に向かせ背中を押しながら進みだした。宮地くんはまだがやがや言っていたけれど、ショウは「いやぁ、久々にリンと話せて嬉しいなぁ」とニコニコ笑ったまま。  案内された隣の部屋には大きな長いテーブルに収まらないほどの料理が並んでいる。豆腐のような白い四角の食べ物に、フライドポテトみたいな黄色い棒状の揚げ物、チキン南蛮みたいな白いソースのかかった唐揚げ、マシュマロみたいな白い綿の上に乗っかった魚の刺身、何かの肉のステーキに……魔法の世界もあまり料理は変わらないんだな。 「ところで、さくらんぼは?」  ショウに確かに約束したはずである。そしてショウは「善処する」と言ったのだ。ちゃんと善処の意味を調べてきた。ショウはさくらんぼを用意してくれているはずだ。  期待のまなざしでショウを見つめると、ショウの笑顔はなぜか苦笑いに変わり、ゆっくりと目を背ける。 「ハハハ…… いや、努力はしたんだ。けどドロシーがね、やっぱりダメだって言ってさ」  頬を掻きながら言い訳するショウを見て何かを察したのか、宮地くんはあきれ顔で私に教えてくれた。 「ああ…… コルレガリアではさくらんぼは王様の食べ物なんだ。王宮以外で食卓に並ぶことはまずない」 「ええっ!? 王様以外はさくらんぼを食べられないの?」  なんて国だ。横暴だ。独裁だ。立ち上がれ国民。  私が一人しょんぼりしていると、ドロシーさんとミクリさんがやってきた。よかった、二人とも何ともなさそう。 「お嬢さん、どうぞこちらへ」  ドロシーさんが小さく手招きをする。一体何の用だろう。私が戸惑っていると、ミクリさんが朗らかに笑って言った。 「せっかくだから、コルレガリアの衣装に着替えましょう。ほら、坊ちゃんもこちらに」  ああ、なるほど。確かにこの立派なお屋敷で、猫のTシャツは少し場違いかもしれない。行ってもいいかなと宮地くんの方を見ると何を思ったのか首を縦に振って頷いた。OKということかな。まぁいいや、宮地くんの手を引いてドロシーさんとミクリさんのところへ移動した。  残ったショウに「また後でね」と手を振ると、「いってらっしゃい」と手を振り返してくれた。
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