3人が本棚に入れています
本棚に追加
~明日のご予定は~
「どう? きつくないかな、ナホちゃん」
ちゃんと自己紹介も終わらしたおかげか、ミクリさんが親し気に聞いてくれる。鏡を確認するとびっくり! 凄い、絵本の中のお姫様みたい! こんなにたくさんふわふわのリボンが付いたお洋服初めて着た。色もさくらんぼみたいでかわいい。これがドレスってやつなのかな。
「ありがとう、ミクリさん、ドロシーさん」
二人ともにっこり笑顔の優しい顔で私を見ている。最初はドロシーさんが少し怖かったけれど、思っていたより優しい人みたい。
くるくる回ってひとしきり喜ぶと、隣の部屋から先に着替え終わった宮地くんがやってきた。
「わあ! 宮地くんもテレビでよく見るオンゾーシみたい!」
「もともと貴族の御曹司だっつーの」
白いシャツに赤色の蝶ネクタイ。黒いズボンにサスペンダー…… あれ、冷静になってみると、隣町の小学校の制服とそう変わらないかも。
「お前は…… まぁ、その。に、似合……」
なぜか私から目を逸らす宮地くん。
「? どうかした?」
「…… なんでもない」
宮地くんはそのまま後ろを向いてショウのいる広間へ出て行った。私も置いていかれないよう後を追いかけてショウのところへ。
「見て見て、ドロシーさんとミクリさんが着せてくれたの」
くるくる回ってショウにこの素敵な服を見せびらかす。時々、絵里ちゃんが同じように回っていることがあるけれど、こんな気持ちだったのかな。ショウはいつもと変わらない笑顔で私と宮地くんの頭を撫でた。
「よく似合っているよ。リンはどう? やっぱりそっちの格好の方が落ち着く?」
「いや、あっちのパーカー? とかいう服の方が生地柔らかくて楽だった」
そういうものなんだ。今着てる服、制服みたいだしなぁ。たしかに宮地くん、よく青色のパーカーを着ていたような気がする。
「そうか。まだ少ししか科学界にいないのに、随分と染まったね。そんなに向こうは楽しいのかい?」
ショウの問いに宮地くんは特に表情を変えることなく「別に」と一言。ショウはクスリと笑うと目の前のテーブルにあったフライドポテトみたいな食べ物をつまんだ。貴族様なのに手で食べるんだ。マナーとか無いのかな。
私もためしにそれをつまんで食べてみた。あ、これジャガイモじゃなくてバナナだ。甘くておいしい。
「気に入ってもらえたようでなによりだ。事前に科学界に近しい味の食べ物を調べておいたんだ」
だから見た目だけ似ている食べ物が並んでいるのか。となりの四角い餃子を口に含んで納得する。久しぶりの故郷の料理だからか、宮地くんもいろいろと食べては頬を綻ばせる。よく見るとフォークとナイフを持っている。私もどこかで借りられないだろうか。
ショウは私の気持ちを察してか、どこからかフォークとナイフ、それからスプーンを取り出して手渡してくれた。
「パーティーではスナック感覚で食べられるものばかりが並べられるんだけど、食べにくいようだったら遠慮なく使っていいよ」
「ありがとう」
ちょうど餃子を手で食べるのにうんざりしていたところだった。けどその前にべとべとになった手を洗いたい。
私が辺りをキョロキョロしていると、ドロシーさんが白い紙を持ってこっちに歩いてきた。てっきりお手拭きを持ってきてくれたのかと思ったけれど、ドロシーさんは私のところを通り過ぎ、ショウの隣に立ってこそこそと何かを耳打ちした。
「……ああ、持ってきてくれたんだね。それじゃ、そろそろ説明しようか。ナホ、リン、こっちにおいで」
言われるがまま隣に並ぶ。ショウは胸元から杖を取り出すとそれを一振り。するとドロシーさんの持っていた紙がふわりと浮かんで、私と宮地くんの目の前で止まった。文字を読んで宮地くんが目を見開く。
「魔法検定……!?」
私も宮地くんの知識を借りて、コルレガリアの見慣れない文字を読む。どうやらその紙は『魔法検定』とやらの申込書のようだ。
「魔法検定ってなに?」
私が宮地くんにそう聞くと、代わりにショウが答えてくれた。
「魔法検定、別名、『魔法使用資格』。その名の通り、魔法を使ってもいいっていう証明書だよ」
お母さんが持ってる、車の免許書とかと同じ感じかな。続けて、ショウが話し出す。
「コルレガリアでは、この魔法使用資格のいずれかを持っていないと、魔法を使ってはいけないことになってるんだ。つまりナホは今、無免許で魔法を使っている犯罪者ってわけだね」
は、犯罪者……?
ショウのその言葉に宮地くんが反論する。
「けどこいつは科学界の人間だ。コルレガリアの法なんて関係ないだろ」
「まぁそれもそうだ。そもそも、コルレガリアの戸籍を持っていない以上、正規の方法でこれを受験することすら不可能だしね」
コセキ? 遺跡なら知っている。
宮地くんは意味が分かっている様で、「だったら何で?」とショウに聞いた。
「魔法検定はね、その人がどれくらい魔法が使えるか、それを調べる場でもある。その人が一体どれくらい魔法が使えて、どれくらい適性があるのか、それをあらかじめ調べておくことで、事故やケガを防ぐことにつながる。……まぁ、これとは別に、最近いろんなところからパラディフィールドのことを探られている様でね。それでもし俺たちが無資格の少女に魔法を使わせているとバレたら大変だろ? だからこれを機に受けてもらおうかなって」
ハハハと胡散臭い笑顔でショウがそういう。宮地くんは呆れ顔でため息をついた。
「……まぁ、意図はわかった。けどどうするんだ。さっきお前が言った通り、こいつには戸籍もないし目の色も黒だ。貴族と偽れない上に、こっちの学校にも通っていない。どうやって受験資格を手に入れる?」
「それなら大丈夫。今年の魔法検定はパラディフィールド家主催だし、既にナホの身分証やその他必要な書類は用意している。この申込書にナホ自身の魔力を注げば書類はほとんど完成だ」
そっちの方がよっぽど犯罪なんじゃないかと思うけど。けれど私に拒否権は無いらしい。さっきまで浮いていた紙が私の手元に収まった。掴んだ途端、さっきまで白だった紙が桜色に染まっていく。これが魔力を注ぐということだろうか。
ショウは満足そうに頷くと、また杖を振って紙を宙に浮かした。
「よし。あと、写真を撮らないといけないから、ナホはドロシーたちと一緒に向こうの部屋に行ってくれるかい?」
ショウがそう言い終わる前に、私はドロシーさんに連れられて隣の部屋へと連れていかれた。
最初のコメントを投稿しよう!